番外編

閑話1


 獅子倉家の前で桜・瑞希・桔梗の3人は、中村家を見送った。彼らの乗った車が見えなくなると手をふるのを辞める。すると桔梗が桜の方を見て言った。


「さて、次はあんたかね」


「え?」


「せっかく翔太アイツと同じ学校になったんだ、これはチャンスじゃないかい?」


「なっ!」


 桔梗の発言に桜の顔が紅くなる。彼への好意を本人は隠しているつもりであったが、桔梗と瑞希身内にはバレバレであった。


「桜はシャイだからねー ここまでしても駄目なんじゃいの?」


 この場が家族だけとなったので、瑞希の口調も砕けたものになる。


「うっさいな!それに、私は翔ちゃんとそういう関係になりたいわけじゃ…」


「じゃあ別な人とくっついてもいいわけだ」


 そう言われると、桜は不安げな表情をする。それを見た二人は、更に畳み掛ける。


「ちょっと子どもっぽいところもあるけど、容姿はそれなりに整ってるし、運動神経がいい」


「それに世界大会まで出たことがあるおまけ付き」


「更に、一般入試で入って来た人は頭もいいって思われるに違いない」


「あ、そういえば、クラスでイケメンが受験しに来てる!って噂になってたなぁ~」


「あーもう、うるさいうるさい!!」


「「あんたの方がうるさいよ」」


 桜は二人から同時にツッコまれる。色々言ってきたのはあっちからなのに、自分の方が悪い感じになるのは少し納得できなかった。


「大体、今更私のことなんて…」


「はぁ…この自信の無さは誰に似たんだか」


 弱気になる桜を見て、瑞希は呆れる。顔や性格は双子ということもあって似ているが、恋愛面では正反対である。桜とは違って強気の瑞希は、いつももどかしく感じていた。


「別にいいじゃないか、それでも」


「「え?」」


 桔梗の言葉に、今度は双子の声が重なる。二人を見る親の顔は優しかった。


「それが個性ってもんさ。桜は桜の。瑞希は瑞希の良さがある。正解はないんだよ恋愛には」


 二人は母の言葉に何も言わず、驚いた顔をしていた。


「なんだ、その顔は」


「い、いや、結構良いこと言ったからびっくりしちゃって」


「あんたらとは経験値が違うんだよ。酸いも甘いも見てきたからね」


「どーせ少女漫画教科書の受け売りでしょ」


「まあちょっとはね」


 そう言うと桔梗は桜の肩を組み、自分の方へと抱き寄せた。


「とは言っても、言わなきゃ伝わらないからね。自分のペースでいいから、卒業までは何とかするんだよ」


「うん」


「それに、駄目だったとしても落ち込むことはない。その時はあんたの魅力がわからない奴だったと思うしかないね」


「ははは…」


 母の言葉に少し感動していたが、これには苦笑いをするしか無かった。こういった部分は全て妹にいってしまったのだろうと、桜は感じた。


「さて、戻るとするかね」


「あ、私お湯沸かしてくるー」


 一足先に桜が家の中へと入っていった。二人きりになった途端、この場が急に静かになる。


「でもいいの?あの事を言わなくて」


 そうなったのを見計らったのか、瑞希が話しかけた。


「ん?借金のことか?」


「いや、そっちじゃなくて」


「あーアノ事ね。言ったとて、どうする事もできないんだ。」


「それはそうだけどさぁ」


 瑞希は少し不満に思ったが、桔梗は絶対に言うつもりは無かった。それを悟ってか、これ以上追求はしなかった。


「ほらあんたも家に入りな。早く戻らないとアイツが怪しむよ」


「ハイハイ、わかりましたよ。夜更かしは美容の大敵ですからね」


 悪態をつきながら家に入りる瑞希を見て、桜以上に将来が心配に思う桔梗だったが、今だけは二人の成長を見守る母親になっていた。

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