第2話 桜先生と受験勉強①

 

 一千万円の借金を返済するため、元女子校の進学校嶺苑学園を受験することになった翔太は、受験までの時間を全て勉強に割くことになった。しかしこのままでは合格する事が難しいため、嶺苑に通っている幼馴染みの桜と瑞希から家庭教師をしてもらう事になった。役割分担として、桜は文系科目。瑞希は理系科目を担当する。そして今日は桜から教えてもらう事になっている。


「いい?今日は先生として来てもらうんだから、わがまま言わないようにね」


 母の亜由美が翔太に注意する。亜由美には借金返済の事は一切言っておらず、知ってることは翔太が嶺苑を受験する事と、そのために桜達が教えに来るという事だけだった。


「それにしても、嶺苑を受けるって聞いた時は驚いたわ。勉強も好きな訳じゃなかったのに、どういう風の吹き回し?」


「それは説明したろ?高校受験は基本一度しかできないからしてみたいからだって」


 勿論これは嘘だが、本当のことを言うわけにもいかないので、翔太はこう言うしか無かった。亜由美が疑うのも想定内だった。


「それは嶺苑じゃなくてもいいのに…やっぱり翔太も男の子なのね」


 亜由美がなんとも言えない表情で翔太を見る。大方女の子目当てだと思ったのだろう。


「ち、ちげぇって!」


「はいはい、わかってます」


「本当にわかってんのかよ…」


 翔太は恨めしい目で母親を見る。口ぶりや表情からはわかった感じには見えなかった。


「まあ、行くのは翔太だし、私達は何にも言わないわよ。それに、桜ちゃん達がいるからそこは安心だし」


「確かに、知ってる人がいるのは心強いかも」


 それに関しては本心だった。色々と学校のことについて教えてもらえるだろうし、困った時助けてくれるかもしれない。それは翔太にとって大きなアドバンテージになる。


「あ、いけない。もう来ちゃうかも」


 亜由美が時計を見て言う。目的の時間まであと3分だった。すると、


“ピンポーン”


 タイミングよくインターホンが鳴った。亜由美が「はーい」と言って、翔大の部屋を出る。暫くすると、玄関のドアが開く音が聞こえ、「おはようございます」と桜の声も聞こえた。


 一人残された翔太は緊張していた。部屋は先程まで念入りに掃除をし、いつも以上に奇麗に整っていた。親以外を部屋にいれるのは5年ぶりであり、粗相があってはいけないと思っていた。幼馴染みとはいえ、例外ではない。


 足音が段々大きくなるに連れて、心臓が鼓動する音も大きくなっていく。翔太は一度深呼吸をし、正座で来るのを待つ。そして足音が止まり、部屋のドアが開く。


「あ、翔ちゃんおはよう!」


 桜が元気に挨拶をする。髪はいつも通りポニーテールで纏められていたが、服装は嶺苑の制服を着ていた。それはまさにお嬢様という感じであった。初めて見る幼馴染みの姿に、翔太は少し目を奪われた。


「お、おはよう」


 返答が遅れ、声も小さめではあったが、桜は気にしていなかった。部屋に入ると周りを見渡していた。


「じゃあ桜ちゃん、翔太をよろしくね」


「はい、任せて下さい!」


 桜は胸を張って言った。亜由美は部屋を出て、二人きりとなった。すると直ぐに桜は胡座をかいて座りだし、いつも通りの活気ある笑顔で翔太を見た。それを見て翔太は、先程目を奪われてしまったのが恥ずかしくなった。


「いやー翔ちゃんの部屋に来るのいつ振りだろう」


「さあ、10年振りとかじゃねー」


「いやいや、そんなに昔じゃ無いって!小学生の時以来でしょ!」


「覚えてんじゃねーか」


 ぶっきらぼうに翔太が突っ込む。さっき迄のドキドキは無くなり、いつも通り幼馴染みと話す感覚になっていた。


「てゆーか、何で制服?今日は休みだろ?」


 翔太はてっきり見慣れたジャージか、もっとラフな格好で来ると思っており、制服は予想外だった。また、今日は日曜日であり、学校も休みのハズである。


「ああこれ?何か母さんが着てけって言うから仕方なく」


おばさんあいつの仕業かよ!!)


 翔太が心の中で叫ぶ。そして以前、桔梗に制服フェチなのがバレ、「高校生までに卒業しとけよ」と言われたことを思い出した。しかしあくまでフェチであり、そのものを集めたり、盗撮もしてないし、するつもりも全く無い。健全だと認識している。


「そういえばこの格好で会うの初めてだっけ?もしかして見惚れてた?」


 桜がどう?という感じで見せつける。しかし翔太は眉一つ動かさない。


「瑞希だったらしてたかもな。桜は馬子にも衣装って感じ」


「うわーひどーい。そんな事言う人にはスパルタでいくから」


「すみません、とても良くお似合いです。なのでお手柔らかにお願いします。」


 翔太は素早く土下座をする。野球ならそれで構わないが、勉強なら話は別だった。


「あはは、冗談冗談。それじゃあ始めよっか」


 そう言って何事もなかったかのように、鞄から過去問を取り出した。翔太もそれを見て筆入れやノートを準備する。先程の茶番のおかけで、翔太の緊張は解れていた。


「まずは過去問からだね。そんなに難しい所は出題されてないはずだからやってみようか」


「ああ、わかった」


「わからなかった所は後で教えるね。では、スタート!」


 桜の掛け声がかかり、翔太はシャーペンを走らせた。

 

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