第20話 和泉さんの狙い①

「ありがとうございました。また授業の日にお伺いします」


 愛李ちゃんに挨拶を済ませ帰ることになると奥様が美味しそうなお菓子を渡してくれた。

 話を聞くに外国の高級お菓子だそうでなかなか手に入らないとか。そんなものは頂けないと一度断ったのだが無理やり持たされて家から出されてしまった。


 僕のバッグの中にはしっかりとお菓子の箱が収納されている。後から和泉さんと一緒にご馳走になるとしよう。

 きっと可愛らしい顔をして喜んでくれるに違いない。そう考えると今からワクワクしてきたな。


「こちらこそわざわざありがとうございました。今度いらっしゃったときは是非夕食をご馳走になっていってくださいね」


「そんな、夕食なんて申し訳ないですよ」


 口ではそう言ってるけど、実は食べたいという気持ちが芽生えてる僕は図々しいのだろう。実際花澤家ではご馳走になっているし…。


「遠慮しないでください。愛李もきっと喜びますよ」


「…ではお言葉に甘えて」


 この間が大事なのだ。少し考えてるような素振りを見せる…これこそが僕なりの人生渡り道。

 …ん?僕は何を言っているんだろう。


 それから僕は電車で大学まで帰ると学食で時間を潰すことにした。和泉さんの講義が終わるまであと十数分。

 ちょっと待っとかないといけないけど、したいゲームのデイリーでもしとけばいい。


 ゲームをやっている時間は一瞬で過ぎ去るからな。





「あ、侑都さん。お待たせしました!」


 十分くらい経っただろうか。

 丁度デイリーが終わった頃に聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声の主は顔を見なくても分かる。

 僕の彼女、和泉さんだ。


「お疲れ様」


「侑都さんもお疲れ様です。新しい生徒さんの所に挨拶に行ってたんですよね」


 和泉さんは僕の真正面の席に腰を下ろしながらそう言った。目が少し赤く、すごく眠たそうな顔をしている。


「うん、いいお家だったよ。いい感じに働けると思う」


「良かったです。ちなみに生徒さんは男の子ですか?」


 なんでそんなことを聞くんだろう。

 生徒さんの個人情報は誰にも話しちゃいけないし。

 …でもまぁ、性別くらいは話しても何も問題じゃないか。


「ううん、女の子だよ」


「…へぇ、そうなんですね。可愛かったですか?」


 可愛いなんて考えたことはない…ことはない。ふと新しい生徒さん、愛李ちゃんの顔を思い出す。

 とても凛とした顔をしていて可愛いというよりは美人という言葉が似あう女の子だと思う。

 あの様子だと学校ではよくある高嶺の花だと呼ばれて日々告白が絶えない生活を送っているんだろう。あ、それは二次元の世界。アニメの世界か。


「とても美人さんだったよ」


「…」


 ふとこの空間が寒くなった気がした。


「でも和泉さんの方が僕は可愛いと思うけどね」


 あ、元の気温に戻った…気がする。


「そうですか、頑張って勉強教えてあげてくださいね」







 ~~~~~~~~~~~~~


 私は諦めることなんてしない。

 でもこの前、私は実質的に侑都を振ってしまった。最初から告白を受けておけば、こんなことにはならなかったのに。


 でも今のまま何もしないままでは物語は進行しない。私にもアクションを起こす必要がある。


 内容は決めている。

 私もイメチェンしてやる。私は侑都と出会う前、幼稚園入学よりも頃からずっとロングヘアを続けてきた。


 でも私も侑都に見直してもらうには、覚悟を示さないといけない。だから髪を切ろうと思う。

 腰まで伸びているこの髪を肩の高さまでバッサリと切る。


 これだけで侑都に許されるとは思っていない。

 まだ侑都には彼女と呼べる女はいない。さっき和泉とかいう女が侑都を連れて帰ってしまったけれど、あいつからは嫌な臭いがする。


 侑都には手を出させない。

 侑都をこの世で一番愛しているのはこの私、赤星里穂だ。


 性格も見直そう。

 あんな侑都を傷つける行為をする赤星里穂は抹消する。これからは自分に正直に、そしてなによりも侑都に正直に生きる。


 虫けらどもには殺虫剤をまけばいい。

 恋は私を盲目にした。恨んではいないよ神様。私を侑都にそばに誕生させてくれてありがとう。


「さっ、美容院に行こ」

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