第18話 

 ふと僕は違和感を覚えた。

 和泉さんからは確かに悪意を感じない。でもほぼ初対面の僕に告白する人なんているだろうか。

 別に僕と付き合ったところでいいことなんてあるわけがない。


 今もこうやって隣でニコニコと微笑んでくれている。その笑顔はとても可愛いし、ずっと守っていたい笑顔だ。でも何か目的が分からないんだよなー。


 普通こんな疑いを持つのは失礼極まりないのは分かっているんだけど…いや、和泉さんは謙虚に僕に好意を向けてくれている。今は純粋に楽しもう。


「とりあえずここでお別れですね。さみしいです」


「僕もさみしいですよ。また会いましょう」


「そうですね。後で連絡します」


 講義のために僕は和泉さんと大学の入り口で別れると、そのまま事務所に方へと方向転換した。

 そう、実は今日講義はない。久しぶりの休日である。予定としては事務所に行って給料を貰い和泉さんが講義を受けている間に新しい教え子に家に挨拶しに行く予定を立てている。


 大学が休みでもバイトが入ってるのが如何にも大学生みたいで苦笑してしまう。でもまぁ、仕方ない。お金を貯める理由が増えたし嫌がらず仕事はしないといけないしな。


 早速事務所にたどり着くと事務長に話しかける。


「あの事務長」


「来てたんだ」


「はい」


 相変わらずぼーってしてるな。これで日本トップの大学を卒業してる…っていう話前もした気がするな。

 事務長と話すときはいつもこの話題が必然と出てきてしまう。言っちゃ悪いが、この事務所はもっと大きくなってもいいと思うんだけど。


「失礼なこと考えてるよね」


 ぎくっ


 なんでばれたんだ。口には出してないはずなんだけど…え、事務長ってエスパーなの。ただでさえなんでも出来る人なのに、エスパーまで持ってるのかよ。

 もう何でもありだな。


「図星」


「あはは…それで事務長。給料のことなんですけど」


「逸らすな」


「すみません」


 やはり事務長には逆らえない。彼女の独特な雰囲気には逆らえないのだ。

 どうやって給料の話にもっていこう。このままじゃ、いつまで経っても給料がもらえない。


 そもそも振込制にしてくれれば毎回苦労しないで済むのに。


「あ、文句考えてる。給料あげないよ?」


「すみませんすみません。悪気はないんですよ」


「…」


 これは信じてない奴だな。

 いつもはどうやって給料受け取ってたっけ。あ、今から挨拶しに行かないといけないし、それを理由にすれば流石に事務長でも邪魔は出来ないはずだ。


「事務長、この後実は新しいお子さんの挨拶に行かなければならなくて」


「…そうなんだ。なら仕方ない」


 事務長はなんなく給料を手渡してくれた。

 これで今月もマンガやラノベを買うことが出来る。和泉さんとのデート代にも残さないといけない。


「ありがとうございます。では失礼しますね」


 頭を下げて事務所を後にする。一応尊敬はしているのだ。面倒くさいと思うのが大半を占めているが、それは絶対に言うことはない。


 どうなるか分かったもんじゃないし…唯一予想できるのは、面倒くさいということだ。


 確か新しい教え子さんの家は大学から離れた場所にあったよな。今回も女の子らしい。

 なんと僕が通っていた高校の後輩にあたる子らしい。

 初めての時は教え子さんが毎回緊張して気まずい雰囲気になるんだけど、共通の亜大があるんだからすぐに打ち解けれるかもな。

 変に気を遣わないでいいかもしれない。





「ここかな?」


 電車に乗っている間、和泉さんから連絡があった。

 今日の最終講義が終わるにはまだ時間がかかるらしく、余裕がある。


 住所合ってるよな?

 凄く大きな家だ…またお嬢様な感じか?お嬢様はもうあの三姉妹で充分なのだが。まぁ、受け持ってしまったわけだし誠心誠意お世話させていただきますけどね。


 一体どんな子だろう。

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