第16話

「災難でしたね侑都さん。あんな女に好かれるなんて。少し気になることがあるのですが、彼女とは知り合いか何かだったのですか?」


 本当に災難中の災難だった。どうして赤星さんは過去の件がありながら開き直って、僕に接近できるのか。

 もし唯一彼女を褒めるのだとすればそれは鋼のメンタル部分だな。


 嫌々ながらも合コン中は赤星さんの相手をせざるを得なかった。結果得た情報は彼氏に振られて新しい出会いを探しているということだけだ。


 はしたないというかなんというか。とりあえず二度と近づかないでほしいと思った。

 そもそもなぜ態度が急変したのか僕には分からない。前とキャラは変わってないはずだし、どちらかと言えば消極的になってると思うんだが。


 やはりいつまで経っても女性の心を読める気はしないな。


「幼馴染だったものですよ」


「だった?」


「ええ、彼女は僕が髪を切っただけで十数年共に生きてきた僕のことを判断できなかったんです。少し前に告白して振られたことがありますし」


 もうあいつのことを幼馴染とは思えない。彼女が僕の幼馴染である限り人生の妨害をしてくる。キャリアを傷つかせるわけにはいかない。


「え、それであの態度を?ありえない…」


「わざわざ僕のためにありがとうございました。たぶん赤星さんは帰ったと思いますし、和泉さんは戻られたらどうです?」


 和泉さんは合コン中、隼人と仲良さそうに話していた。特に隼人が熱中的に彼女に話しかけていたようだが満更そうでもなかったし美男美女でお似合いだ。


「いや、結構です。私は侑都さんと一緒にいたいので」


「はぁ?」


 色々と変わっている人だ。

 特別親しくもない、一度顔を合わせただけの僕を助けるし意味深な発言もするし、今も隙あれば僕にくっついて来ようとしているのがまるわかりだ。


 赤星さんみたいに下劣な気持ちはこもっていないようだし放ってるけど。


「隼人といい感じだったように思いますけど、大事な機会なのに」


「大事な機会ですから侑都さんと一緒にいるんですよ。あ、手を繋いでもいいですか?」


 和泉さんは僕を諭すようにそう言うと、有無を言わせず僕の手を取ってきた。彼女の手が僕の手を優しく包む。

 繋いだ和泉さんの手はとても小さくて、すべすべしている如何にも女性の手だ。


 繋いだことないけど。


 というか…なぜ恋人繋ぎ?????


 恋愛無経験の僕でもそれくらいは知っている。お互いの指と指を交互に絡めあうように手を繋ぐ型は恋人つなぎと呼ばれるものだ。


 まさか人生で経験することなどないと思っていたものをこんな時に卒業するとは。すごく複雑な気持ちだな。

 でも不思議と暖かい。


「ふふ、ドキドキしますか?」


 和泉さんは小悪魔的な笑みを浮かべて僕の表情をのぞき込んできた。反射的に目を逸らすが、無理やり目を合わせられる。


「…」


「無言は肯定の意味なんですよ。ありがとうございます。ドキドキしてくれて嬉しいです」


 女性はやっぱり何を考えているか分からない。

 でも和泉さんと一緒にいると心地よい。声も雰囲気も、容姿もすべてが完璧。


 赤星さんとは比べ物にならない安心感。彼女に話していると幸福感が沸いてくる。


「和泉さん、もしよければ連絡先を頂けませんか?」


「へ?」


「別に嫌なら」


「いやいや、私こそお願いします。まさか侑都さんから言ってもらえるなんて思って無くて」


 和泉さんの頬に一滴の雫がしたたり落ちる。


 その後僕たちは連絡先交換を行って二次会に行くことになった。行先は合コンではお互いあまり歌えなかったからと違うカラオケボックスだ。


 和泉さんは歌がとても得意らしく僕のことを惚れ惚れさせると自信満々に言ってきた。

 その時の彼女の様子は宝石よりも輝いていた。


 そして解散の時、僕は和泉さんから告白され付き合うことになった。





~~~~~~


次話:私の復讐計画

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る