第15話 ざまぁ②

 我ながら選択肢は間違っていないと信じている。僕の連絡先が追加されたスマホを見る赤星さん。

 状況が飲み込めないのか僕とスマホをちらちらと交互に見ながらプルプルと震えている。


 そんなに見ないでほしい。正直口が悪いのは自覚しているが気持ち悪い。そもそも赤星さんには付き合っている彼氏がいたはずだ。

 前にホテルに入っていったのを覚えている。


 仮に別れているのだとしても、そんなに早く新たな出会いを求めること自体尻軽というかなんというか。

 本当、なんで彼女のことが好きだったのか分からない。失恋して彼女のことを客観視するようになって魅力が伝わらなくなった。


 失恋してよかった。


「あ、あんた。嘘でしょ。侑都なの?」


「そうですよ。久しぶりですね、赤星さん」


「なんで敬語なのさ。幼馴染でしょ」


 は?


 危ない危ない。思いっきり口に怒りを出してしまうところだった。隼人のためにも空気は悪くしたくない。

 まぁ、もう手遅れだと思うけど。


「前、二度と話しかけないでって言われたので。もう他人でしょう?」


 あの時の言葉を忘れたことはない。消えることのない僕の心の傷。一生癒えることはないだろうな。


 敬語もキモ、なんて言われたのに今は疑問を持つ。

 意味が分からない。情緒不安定か?言動に矛盾があるやつを信じろなんて不可能である。


「僕なりに気を遣っているんですよ。赤星さんにはお付き合いなさっている方もいるでしょうし、このような場に来るのはいささか…いえ、やっぱりなんでもないです」


 怒りのあまり超絶失礼なことを口走りそうになった。


「他人って。私にどれだけお世話になってきてると思ってんの?」


「お世話になったのは事実ですが、あなたは僕のことを無下に扱ったのは事実。態度を改めようとは思いません」


「はぁ、少し容姿が変わったくらいで調子に乗らないでくれる?せっかくあんたの好きな人が誘ってくれてるんだから大人しく付き合いなさいよ」


「…」


「今のあんたは私に付き合うに値するわ。ハグでもセックスでもなんでもさせてあげる。どう、魅力的でしょ?」


「…」


 隼人たちが場の異変に感じたのか黙った。女性たちは赤星さんの見てなにやらひそひそと話している。

 案外悪口言ってたりな。女性の闇は怖い。


「あ、もしかして連絡先勝手に消したから怒ってるのね。それはちょっと手が滑っちゃっただけでわざとじゃないの」


 僕が凄いなと思った。

 なんでここまでポジティブにいられるのか、まったく謝罪の意が伝わってこない。クズ過ぎるだろう。怒りは不思議と収まっている。


 代わりに沸いて出てきたのは、呆れだ。


「そうですか、別に怒ってないので気にしないでいいですよ」


「ほんと?」


 赤星さんはわざとらしく笑顔になると、可愛らしい仕草で僕の手を取る。

 性格は終わっているけど顔は可愛いんだよな。そもそも僕が彼女に惚れた理由の一番は容姿だ。


 恋は盲目っていうように容姿の次は性格も好きになっていって…。


「じゃあ、飲も?後からエッチするんだしさ」


「は?」


 こいつは何を言っているんだ。何がエッチだ。僕がお前についていくと思うのか。怒ってはないけど許しているわけじゃないんだぞ。


 やっぱり馬鹿なのか?


「え、しないの?」


「…いいや」


「だよね。いっぱい飲もうよ」






 合コンも終盤になってきてみんながみんなすごく酔っている。僕もその一人で無性にたくさん飲んでしまった。

 もう帰ろう。


 僕は隼人に帰る節を伝えるとお金だけ渡して荷物を持つ。


「あ、帰るの?」


「…ああ」


「じゃあ、行こうか♡」


「…」


 これからどうしよう。

 言うまでもないと思うが、こいつと一緒にどこかにいくつもりなんてない。

 どうやって撒くかを考える。


 僕が部屋を出ようとした時…


「待ってください」


「え」


 ある女性が扉の前に立って僕が出るのを妨げた。


 なにか見覚えのあるような気がする人だ。合コン中隼人にずっと絡まれていた可愛らしい女の子。


「和泉奏っていうんですけど、覚えてますか?」


 和泉奏…思い出した。

 この前事務所に行く前に話しかけてきた女性だ。あったことがあった気がするのはそれか。


「はい、この前の」


「もう帰られるんですか?」


「まぁ、はい」


「じゃあ、私も」


「は、あなた私がいるの見えないの?」


「侑都さんが嫌がっているのがあなたには分からないのですか?分からないのならお幸せなお頭ですね」


 へー、この人結構きつい言葉言うんだな。


「はぁ~、なんであんたにそんなこと言われないといけないわけ?今から私は侑都と過ごすの」


「嘘ですよね侑都さん?こんなアバズレとなんて嘘ですよね」


 赤星さんはその言葉に起こったのか僕の腕に巻き付いてきた。


「放せ」


「え?なんて言ったの侑都?」


「なぁ、赤星さん。もう二度と近づかないでくれないか?」


 僕は勢いよく赤星さんを突き放す。

 あーあ、この服は廃棄だな。


「良かったです侑都さん。さぁ、行きましょう」


 僕は和泉さんに連れられてカラオケを出た。

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