第12話
僕には不思議と焦りはない。解雇宣言されたわけだし、その挨拶は後々しなければならなかったのだ。事務長に連絡して作業を進めてもらおう。
家庭教師と生徒という間仲にも一種の契約が結ばれている。
大人は責任もって契約を結ばなけらばならない。僕も既に大人。親が責任取ってくれるわけではなく、自分で管理しなくちゃならない。
面倒くさいという気持ちがありつつ謎の優越感に浸れる。成長したんだなーなんて。
僕はおもむろに立ち上がると三人を横目に部屋を出て一階へと降りていく。奥様と目が合うとすぐさま彼女は目を細めて僕のことを敵を見るような目で睨んできた。
そりゃそうだよな。家庭教師の日でもないのに僕がこの家にいるのは奥様からしたら理解しがたいはずだ。
僕の意志で来たわけではないんだけどな…いや、琴乃ちゃんをここまで送ったのは僕だし実質自分の意志できたと言ってもおかしくない?
とりあえず誤解を解かないと話は始まらない気がするので頭を下げることにした。
「お邪魔しています。奥様」
「なぜあなたが今日、
怒ってるな。女の子の親って怖いと聞くけど本当らしい。
「そうですね。なんと説明するべきかわかりかねます。ただ一つだけ伝えることがあるとするならば、決してよこしまな目的ではないということです」
「その言い方なればあなたは逆に疑われますけれど?」
え、なんで。不安な気持ちにならないでほしいと一番最初にケアを入れたつもりなんだけど間違ってた?
「何も分かっていないようですね。嘘はついていないようで」
あ、良かった。信じてもらえたようだ。人付き合い苦手だからこういう時どんな反応したらいいのか分からないの本当に困る。
僕はふと見上げてみると三姉妹が心配そうに僕たちのことを見つめていた。椎名ちゃんと葉月ちゃんに至っては涙目だ。
そこまで心配しなくてもいいのに、と僕のは心の中で微笑んだ。
「はい。分かっていただけて嬉しいです」
「ええ、それで何故あなたがここにいるのかは…あの子たちに聞いた方が良さそうですわね」
円卓会議が始まった。僕としてはさっさと終わらせて帰りたい気分だ。明日ももちろん大学である。今日仲良くなった陽キャ部類のやつに遅れず来いなんて脅されているし。
「さぁ、なぜ侑都くんがここにいるのかしら。今日は授業の日ではないはずだけれど?」
「あの、奥様」
「侑都くんは少し黙っててもらえるかしら」
「はい」
肩身が狭いとはこの通り。
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