第11話 三姉妹の狙い②

 僕が焦るのは必然的なことだった。なんせ突然雇用主から解雇報告。

 何かやってはならないことでもしてしまっただろうか。残念ながら僕には自覚がない。

 仕事中はしっかりと生徒に向き合って真剣に向き合ってきたつもりだ。


 もしそれが相手に伝わっていないのであればそれまでだが。一応僕は事務所内では一番評価が高いはずなんだけどな。

 

「え、なんで。僕どこかダメだったのかな。それなら直すよ。だから…」


「安心してください。先生はなにも悪くありませんよ」


「じゃあ、なんで」


 どうやら僕に悪い所はないらしい。尚更混乱してきた。


「邪魔だったんです」


「邪魔?」


「はい。私たちと先生がずっと生徒と教師の関係だったらしたいことも出来ませんから。障害はなくすに尽きますよね」


「つまり椎名ちゃんたちの目的のための解雇ってこと?」


「はい。私たちがただの知り合いになれば、知り合いという薄い関係から進むことが出来ます。琴乃も葉月もこの案に賛成してくれました。これは私たち三人の意見です」


 彼女が言いたいことを完璧に理解したわけじゃない。色々と理由付けしてくれたがつまり言いたいことは家庭教師が要らなくなったということだろう。


 いずれ別れる時がやってくるのは分かっていた。ちょっと早くなっただけだ。


「そうか。分かったよ」


「分かってくれましたか先生!…いや侑都さん」


 僕はゆっくり頷く。


「ではこれからよろしくお願いしますね侑都さん」


 椎名ちゃんは唐突に笑顔になると僕に抱き着いた。


「え、えっ⁈」


 唐突なる彼女の行動に慌てた声を出してしまうが僕は平然を保つ。女性慣れしていない僕には刺激が強くて油断してしまえば変な顔になってしまいそう。

 そんな顔を見られるわけにはいかない、とどうにか理性でおさえている。


「今日から私たちは生徒と教師じゃありません。もう何も邪魔するものはない。これからたくさん一緒に遊びましょうね!」


 う、笑顔が眩しい。そしてなんか椎名ちゃんがいつもより生き生きしている気がする。何かに解放されたかのような。僕にはよくわからないけど、解雇されたことがどうでもよくなってきた気がする。


 まぁ、仕事が減っちゃうから代わりは探さないとだけど。


「椎名だけずるい」

「椎名さんだけずるいです」


 聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら扉から葉月ちゃんと琴乃ちゃんが入室してきた。どうやら最初から扉に耳を当てて聞き耳を立てていたらしい。

 なんとも憎めない姉妹だ。


「ごめん二人とも。抜け駆けしちゃった」


「まあ椎名のおかげで遠慮しなくてよくなったしね。許してあげる」


 琴乃ちゃんもうんうんと満足そうだ。


 僕まだあまり状況理解できていないんだけど…ただ確定していることは僕のことを悪く見ているわけではないということだ。


「侑都さん、状況が状況ですから正直に話しますね」


「え、うん」


 よくわからないまま僕は軽い感じで返事する。


 椎名ちゃんがそう言うと、葉月ちゃんと琴乃ちゃんと三人で横に並んで僕のことを上目遣いに見つめてきた。三人とも僕より背が小さくて上目遣いの威力が果てしない。


「ただいまー」


 椎名ちゃんが口を開こうとした瞬間、扉の向こう。正しくは玄関の方から女性の声がした。


「あ、お母さんが帰ってきたんだ。こんなに早いなんて」


「まずいよ椎名。お母さんに侑都さんがいるのばれたら。家庭教師のこともまだ話してないのに」


 葉月ちゃんが状況を教えてくれた。


 どうやら解雇に関しては彼女たちが独断と偏見で勝手に決めたことらしい。母親には僕がいないときに告白して怒られようとしていたという。


 それから椎名ちゃんと葉月ちゃんが僕に隠れるよう仕向けてきた。タンスの中やら押入れの中、ベッドの下などあらゆるところを提案されたが次の瞬間彼女たちの努力が一蹴される。


「でも玄関に靴ありますよね」


 琴乃ちゃんが言った。


 そう、僕の靴は玄関にそのままになっている。家の人なら違う靴があったらすぐに誰か来ていると察することは可能なわけで…


「椎名ー、誰かご友人さんがいらっしゃってるのー?」


 彼女らのお母上様にはお見通しみたいだ。

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