第10話 三姉妹の狙い①
皆さん、チョロインという言葉は御存知だろうか。僕は知っている。
なんせ僕の好きなヒロインのタイプだからだ。
普段学校では高嶺の花だと周りから崇められて彼氏なんて作らないだろう孤高の存在だと思われていた女の子が、主人公の少しの行動でコロッと恋に落ちる。
つまりチョロい。チョロいとヒロインが合わさって出来た言葉がチョロインってわけだ。
「先生はこのような方がお好みで?」
「あ、えーと。そうなんだよね。あはは…」
家の近くで琴乃ちゃんとたまたま遭遇してしまった僕は何故か琴乃ちゃんをうちへと招待してしまった。
連れてきたところで自分がまずいことをしたのだと気づいたわけだが、気づいたときにはもう遅い。思い切って開き直ってやった。
琴乃ちゃんは買い物帰りだったらしい。運が悪いというべきか良いというべきか、教え子と外であう気持ちって複雑なんだと思った。
高校生の頃に一度だけ担任と学校外であったことがあるけど気まずかったんだな。
それにしても僕の趣味本棚をじーっと見つめないでほしい。花澤三姉妹は僕がオタクだということは知らない。
今度揶揄われるかもしれないなぁ、なんて思いつつため息を吐いた。
「もう帰らなくて大丈夫なのかい?」
買い物帰りだったということは椎名ちゃんと葉月ちゃんはきっと彼女の帰りを待っているはずだ。あの二人が料理がオワコンなのは僕も知っていることだ。
「そうですね。確かに二人が待っています」
琴乃ちゃんはそう言うとお茶を一飲みし、帰る準備して帰っていった。夜になりかけていたため念のため家まで送りました。しっかりね。男としては当たり前のことと言いますか。
「わざわざありがとうございました。先生」
「はーい」
本当に琴乃ちゃんは礼儀正しいな。あの二人とは違うなぁ…
「先生、今失礼なこと考えてましたよね?」
「え、わっ!」
話しかけてきたのは椎名ちゃんだ。
「なんでって顔してますねー。琴乃が帰ってきたので様子を見に来たら獲物がいましたので」
「獲物ってなんだ、獲物って」
「あ、すみません。先生いじるの面白いんでつい」
椎名ちゃんはてへっ、と微笑むと僕の手を掴む。僕は何も突っ込む暇なく家の方へと引っ張られて無事玄関の中まで連れてこられてしまった。
「せっかく来たんですからどうぞ上がっていってください」
「それ引っ張る前にいうことだよ普通」
「まぁ細かいことは気にしないでいいじゃないですか。今日は大事な話があるんですよ」
「大事な話?」
コクっと頷く椎名ちゃん。瞳は真面目だ。
話を聞くしかないのか。ラノベ読みたかったんだけどな。後からゆっくり楽しむとしようか。
僕はしっかりと靴を揃えて葉月ちゃんに挨拶をすると椎名ちゃんに連れていかれるがままの彼女の部屋へとやってきた。
部屋は至っていつも通り…ではなかった。僕が家庭教師をするために来るときみたいに片付けられていない。
彼女の部屋は色々なものが散らばっていた。充電器やバッグ、部活の道具など様々だ。
「これは気にしないでくださいね。これが本当の私ですから」
「そうなんだ」
意外だ。勉強以外は完璧主義だと思っていたのに…いや、ベッドでゴロゴロしている女の子だ。もう言わなくても分かるだろう。
「どうですか先生。本当に私を見てだらしないって思いましたか?」
椎名ちゃんは突然僕との距離を縮めてきた。
「ちょ、近いよ椎名ちゃん」
「いいから答えてください」
「一回はなれて」
「いいから」
圧が強い。なにか悪寒がした。
「いいと思うよ。僕としては心を許してもらえたようで嬉しいしね」
「そうですか。良かったです」
僕がそう言うと椎名ちゃんは安心したように僕から離れて見せた。
「実はですね先生。先日をもって家庭教師を解任ということになりました」
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