第7話 平和な日々②

「すごい、美味しそー」


 僕は琴乃ちゃんが料理している隣に立ちぐつぐつと煮られているカレーを見て言う。言葉でも言ったがとても美味しそうだ。

 僕の大好きなジャガイモ、ニンジン、牛肉、玉ねぎその他もろもろメジャーな具がそろっている。


「そんなことないですよ。普通のカレーです」


「普通だからいいんだよ。琴乃ちゃんの料理はいつも本当に美味しいから楽しみ」


 僕がそう言うと琴乃ちゃんは頬をボワっと赤く染めて俯いた。どうしたんだろう、ずっと立ちっぱなしで疲れているのかな。


「僕がかき混ぜてようか?琴乃ちゃんは疲れてるでしょ?」


 見た感じ既にカレーは出来上がっているようだった。後は焦げないようにかき混ぜ続けるだけだろうし、僕も少しくらいお手伝いしたい。

 いつもお世話になってるのに僕だけいい思いするのは違う気がするしね。


 僕は琴乃ちゃんからお玉を受け取りかき混ぜ始めた。二階にいた時に感じたほのかなカレーの匂いじゃない。しっかりとしたスパイシーさが伝わってくる濃ゆいカレーの匂いだ。

 まぁ、つまり僕が言いたいことは今すぐにでも食べたいってことさ。


「すみません。ありがとうございます」


 琴乃ちゃんはいつの間にか普段通りに戻っており、器の用意を始めている。椎名ちゃんと葉月ちゃんも匂いに釣られてダイニングまでやってきた。


「流石琴乃ー。ちょー美味しそ!」


「じゃあ、ご飯にしましょうか。先生ありがとうございます」


「どういたしまして」


 こうやって普通にお礼を言えることは素晴らしいことだな、なんて先生らしいことを考えながらも僕たちは各々食べる分だけ準備すると机に腰を下ろした。


「頂きます」


 僕は笑顔で手を合わせた。



「ご馳走様でした。今日はありがとうございました」


 僕は食事を終えると皿洗いを手伝い、そのまま帰ろうとしていた。明日はまた普通に大学に行かなければならいし、生徒の自宅に長時間いるのはよろしくない。家でやりたいゲームもあるしそろそろ帰ることにしたのだ。


「こちらこそありがとうございました先生。また来てくださいね」


「またね」


 僕は手を振りながら花澤家を去った。





 ☆☆☆


「じゃあ行って。琴乃」


「はい、行ってきます」


 ☆☆☆


 僕は家に着くと早速本棚に手をかけた。漫画本からライトノベル、子供の頃から大切にしている絵本など色々ある。

 僕が最初に手に取ったのは今季アニメとして放送されている作品の最新刊だ。アニメが放送されるまでは知らなかった作品なのだが、初めてアニメを見てすぐに原作を買ってしまった。


 同じようなことになった人はこの世でもたくさんいると思うけど。


 それにしても面白過ぎるなこの小説。なんでこれまで知らなかったんだろう。続きが読みたすぎてたまらない。


 そろそろ家庭教師の仕事を増やさないといけないかもしれない。なぜか分からないけど、僕が今まで担当してきたのはみんな女の子なんだよな。

 同僚の家庭教師たちは男の子を担当している人もいるのに。


 今は椎名ちゃんしか担当してないけど担当を増やしてもらおう。明日らへんに事務所に行こうっと。


 僕はそのまま暇をつぶし、いつの間にか眠りに落ちていた。

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