第6話 平和な日々①

 椎名ちゃん、葉月ちゃん、琴乃ちゃんの三人は所謂三つ子というやつだ。双子はたまーにいるだろうが三つ子はすごく珍しい。

 僕が生きている中で三つ子を見たのはこの三姉妹だけだ。


 どこかの研究者曰く一卵性の三つ子は二億分の一だとか。すごいな。


 僕は一人っ子だったから兄弟のいる生活は分からない。だから憧れることがある。

 喧嘩とかは日常茶飯事だろうが、それでも兄弟のいる生活はそのデメリットなんて気にならないほど楽しくなるんじゃないだろうか。


「琴乃ちゃん、いつもありがとうね」


 本当に琴乃ちゃんにはお世話になっている。普段からこの家では琴乃ちゃんがご飯を作っているらしく僕がこうやって家庭教師としてお邪魔するときは晩御飯をご馳走になっているのだ。


「こちらこそお世話になっているのでこんなことでお礼なんていただけないです」


 うむ…琴乃ちゃんってなんでこんなにいい子なんだろう。椎名ちゃんも葉月ちゃんももちろんいい子なのだが琴乃ちゃんだけ格が違うっていうかな。

 さぞかし学校では清楚系美人としてモテているのだろうな。


 僕がもし同級生だったら告白しているかもしれない。あ、これはセクハラか。時間だし椎名ちゃんの部屋に向かおうか。


「じゃあまた後でよろしくね」


「はい」


「椎名のことしっかり見てやってくださいね」


 僕は椎名ちゃんの部屋にやってくると彼女はベッドの上でゴロゴロとスマホを触っていた。

 瞬間僕は椎名ちゃんが課題をしていないことを悟り、わざとらしく声をかける。


「こんばんは椎名ちゃん?」


「昼ぶりですー。先生!」


「先生!じゃない。ノックしたのになんでまだゴロゴロしてるの。始めるよ」


「えー、面倒くさいです」


「じゃあ落ちるぞ?」


「それはだめ」


「じゃあ立ちなさい」


「はーい」


 実はこのやりとり、これが初めてではない。前回も前々回も前々前回も椎名ちゃんはベッドの上でのびのびとスマホを見つめているのだ。


 だけど怒れない理由がある。椎名ちゃんは隠しているつもりなようだが、前に自学ノートを覗いたことがある。

 見た時は驚いた。だって勉強の証がずらーっと書かれていたのだから。


 椎名ちゃんは椎名ちゃんなりに頑張ってくれているのが凄く嬉しい。最近は成績も伸びてきているし、将来が楽しみだ。


「よし、じゃあ始めようか」


「よろしくでーす」



「よし今日は終わり。お疲れ様」


「疲れたー。そうだ先生」


「どうした?」


「先生って学生時代はモテてなかったんですか?」


 僕の学生時代…それは散々なもの…ではなくごく普通の生活だった。特に学生時代から僕は今になっても変わっていることなんてない。

 髪はずっと長かったし、特別勉強もスポーツも出来たわけでない。


 あの時から赤星さんのことを一途に想ってたからな。今になっては後悔しかないわけだけど、今はもう割り切ったつもりだし気にしてない。


 そしてもちろん女子に告白されたことはない。


「まぁ、告白されたことはないかな。僕なんかがモテるわけないの椎名ちゃんでも分かるでしょ?」


「……そうですね、見る目ないなーとは思いますけど」


「はは、椎名ちゃんは相変わらずお世辞が上手いね。椎名ちゃんは好きな人いないの?」


「いないですね。同級生の男子はみんな子どもっぽくて嫌です」


 そうか、小学校高学年になった女の子は同級生男子が子どもっぽく見えるっていうもんな。高校でも同じってことだろうか。


「じゃあ気になる人もいないんだ。サッカー部のキャプテンとかかっこよくないの?」


「まぁ、悪くはないと思いますけど、私は…」


「ふーん。いい人が見つかるといいね」


 僕たちはそこで会話を終えると椎名ちゃんの部屋を出る。するとキッチンの方からいい匂いが漂ってきていた。

 この匂いは多分カレーだな。


 僕は母さんの料理の中でカレーが一番大好きな料理だった。たとえどんなにお高いレストランに行こうとも母さんのカレーの方が美味しかった。


 琴乃ちゃんのカレー楽しみだな。

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