第5話 好きだった女の子②&三姉妹

「え、私の名前を知っているんですか?」


 は、彼女は一体何を言っているのだろうか。君の目の前に立っているのはついこの前振った相手だよ。

 冗談ならなんて性格が悪いのだろう。


 もし本当に僕だと気づいていないのであれば…それはそれで問題だ。長年ともに成長してきた相手のことを容姿が少し変わったところで気づかないなんて。


 僕に相当興味がなかったのか、それとも…今は別にいい。今から僕は家庭教師をしに行かなければならないのだ。

 彼女が僕と分かっていないなら都合がいい。どうせいつか二人で話す時がやってくる。


 今くらい逃げてもいいだろう?


「あ、いや大学で見かけたことがあったかなって」


「そうなんですか?!同じ大学なんて奇遇ですね!」


 この笑顔はなんだろう。初めて見たな。本当に眩しい…けど、どこかしら見繕っているようにも見える笑顔。

 女性って改めて怖いなって思った。


「名前はなんていうんですか?」


「え、名前…」


「お兄さん、とてもかっこいいなって思って。良かったら連絡先交換でもしませんか?」


 どうしよう。なんて答えればいいのか分からない。連絡先は既に持っているじゃないか。本当に僕だって気づいてないんだな。


「すみません。今、急ぎで。また大学であった時によろしくお願いします!」


 僕は深く考えた結果、この場を去る選択を取った。このままこの場にいても面倒くさいことになりそうだと本能が感じたのだ。


 僕は自慢じゃないが感が間違っていたことはあまり多くない。今回も自分のことだけ信じて行動しようと思った。


「あ、すみません。じゃあまた大学で」


 赤星さんは可愛らしい笑顔を浮かべて走る僕に手を振ってきていた。僕は軽く手を振り返し、その場を去ったのだった。


 彼女の姿が見えなくなってから僕は何故かメッセージアプリを開いていた。なぜ開いたのかは分からない。

 でもある事実だけは把握できた。


『赤星 里穂』の名前が消えていると。




 歩いて数分。僕は目的地にたどり着くと早速チャイムを鳴らした。椎名ちゃんの家系は所謂富豪ってやつで父親がある大企業の会長さんらしい。


 そのためは彼女の家はとても大きい。それはもう僕の家は比べ物にならないし、なんなら事務所よりも大きい。


「相変わらず大きいな」


 僕も人生で一回くらいこれくらい巨大な家に住んでみたい。家具をいくらおいてもスペースに余裕があり模様替えはし放題。

 僕の家は狭いからな。模様替えしようとしても大体決まった場所にしか設置できないんだよな。


 狭い家の人なら共感してくれるだろう?


「はーい」


 インタホーンから聞きなじみのある声が聞こえたと同時に門が開かれる。ギィ…なんて音はならない。

 造りがいいなぁ。


「失礼しまーす」


 誰にも聞こえないのは分かっているんだけど、なんか雰囲気的に挨拶しちゃうんだよなー。


「こんにちは先生!」


「こんにちは」


 出迎えてくれたのは椎名ちゃん…ではなく妹の葉月ちゃんだ。椎名ちゃんとは同い年の妹さんである。

 椎名ちゃんと性格は似ていて天真爛漫な女の子だ。流石姉妹。


「今日は食べていきますかー」


「今日はー、もし可能ならお願いしたいかな」


「だってー、琴乃」


 葉月ちゃんの呼ばれて奥から出てきたのは椎名ちゃんの妹であり、葉月ちゃんの姉にあたる琴乃ちゃんだ。

 天真爛漫な二人に挟まれてるのにも関わらず二人とはまったく似ていない。


 とても穏やかな性格で初めてあった時は大人っぽい子だなっと感じたのを覚えている。


「分かりました。今日もご準備しておきますね」


「ありがとうね。琴乃ちゃん」


 僕はこのお家によく晩御飯をお世話になっている。三人ともとても僕に良くしてくれれていて居心地のいい場所だ。

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