第4話 好きだった人①

「美味しかったです。先生、ご馳走様でした」


「パフェ美味しかったね」


「はい、最高でした!」


 パフェが出てきたときはビビった。写真で見たやつの一回りは大きかったのだ。あれは一人で食べきるようなものじゃない。


 フードファイターなら別だろうが、僕みたいな平凡な男には多すぎた。まぁ頑張って完食したんだけど、正直お腹がいっぱい過ぎて動けない。


「じゃあ、私はこの後用事があるのでまた夜によろしくお願いします」


「うん、また後でよろしくね」


 夜にお願いしますなんて傍から見ればイケナイことをお約束しているみたいで恥ずかしい。至ってホワイトな関係だから誰から問いただされようと問題ないけどね。


 さあ用事も済ませたことだし家に帰るとしよう。




 僕は家のある最寄り駅にたどり着くとあることに想いを馳せた。


 あのお姉さんは本当に綺麗な人だった。確かにイケメン君がべた褒めするくらいはある。彼女に想い人はいるのだろうか。


 名前は僕の記憶が正しかったら結城だったと思う。まるでアニメの世界の美少女ヒロインみたいな苗字だな。

 さぞかし学生の頃はモテていたんだろう。


 僕が学生の頃は…ううん、思い出さないようにしよう。


 と僕が他のことを考えようとしていた時、見知った顔を僕の瞳が遠方に捉えた。


「里穂…?」


 は、僕はなんで彼女のことを親しげに下の名前で呼んでいるんだ。僕と彼女は赤の他人。

 これじゃまるで僕が未練たらたらみたいじゃないか。


 どうやら赤星さんは男と歩いているらしい。デートか、それとも…。

 僕にはどうでもいいことだけど、僕の足が言うことを聞かない。なぜか彼女と名前も知らない男に張り付くように動いてしまう。


 どうしたんだろうか、僕の足は。

 しばらく歩いて彼らはある建物の前で立ち止まった。


 ラブホだ。看板に大きなピンク色のパートマークと共に可愛らしい言葉が並べられていた。


 二人はお互いをいやらしい目つきで見つめあいながらホテルの中へと入っていった。やっぱり赤星さんは一線を越えていたんだ。


 僕のことをどういう目で今まで見つけてきたのだろう。あの男はイケメンだったな。


 そうか、結局女は顔が良ければ誰でもいいんだな。そりゃ僕じゃどうしようもないわけだ。

 なんとなく世の中の不条理さが理解できた気がするよ。


 もういいや。帰ろう。





 夜になった。今から椎名ちゃんちに家庭教師をしに行かなければならない。宿題はきちんと終わらせているかな。

 最近椎名ちゃんがしっかりと終わらせていた時があったかな。たぶんなかったと思うけど。期待しないで行こう。


 着替えを終えて家を出る。運がいいことに椎名ちゃんの家は結構近くにある。彼女は知らないだろうけどね。


「あ、あの…」


「ん?」


 突然話しかけられた僕は振り返る。


「は、赤星さん!?」


 なんと僕に話しかけてきたのは赤星さんだったのだ。

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