第3話 発見

 そういえば今日は家庭教師だったことを思い出した。週に二回という少ない時間だが椎名ちゃんのお家にお邪魔するときは良くしてもらっている。


「先生は結局、何をしていたんですかー?」


 彼女は気を遣ってくれたのか笑顔で僕に話題を提供してくれる。


「今からここでお茶でもしようかなって。せっかくこの辺に来たんだからね」


 実は帰ろうと思っている、なんてことは言わないが実際帰りたい気分だ。陰キャあるあるなのかは分からないが、いざという時にやろうと思っていたことを止めたくなるのだ。


 うん、しょうがないことだよね。だって陰キャだもん。


「そうなんですか!なら私もご一緒します」


「え」


「どうしました、侑都先生?」


「いや、なんでもない。じゃあ入るか」


 僕と椎名ちゃんはカフェ内に入るとたまたま食事を終えたカップルが離れて行った席に腰を下ろす。

 店員さんが慌てて片付けをしてくれたから、そんなに気にしないでもいいのにと思った。


「僕がおごるよ。なにか好きなもの頼んでいいよ」


「いいんですか?!先生ありがとうございます」


 僕はいいよいいよ、と言って彼女に注文するよう促す。

 そんな僕も自分の目的のために店内の様子を伺っていた。


 あのイケメンが興奮しながら教えてくれたのだ。きっと絶世の美女に違いない。


 ちょこっと目の保養にさせてもらうだけだ。僕も毎日毎日大変なんだよ。大学ってさ、僕が高校生の時までは陰キャだらけの楽園だと思っていたんだ。


 だが現実、同じ学部には知り合いなんかいないし、陽キャしかいないし友達なんて一生できる気がしない。

 実はもう諦めているからどうでもいいんだけどね。


「先生、これ頼んでもいいですか?」


 椎名ちゃんが見せてきたのはこの店で一番お高いパフェのようだった。メニュー表に載ってる写真からでも美味しそうなのがひしひしと伝わってくる。


 僕もこれにしようかな。ちょっと高いけど、どうせ今日お給料もらえるし少しくらい奮発してもいいか。


「いいよ。僕もそれにするから二つ頼もうか」


 呼び出しボタンを押して店員さんが来るのを待つ。店内は混んでいて待つ必要がありそうだ。


「どう、勉強は進んでる?」


「そーですねー。特別進んでるとは言えないかもです」


 椎名ちゃんはお世辞なしにあまり勉強が得意な方ではない。正直今のままでは僕が通う大学に合格することは難しいと思う。

 大学受験は高校受験のように甘くないんだ。


 僕が受験生の時は通っていた塾の塾長に大学受験は落とすための試験だと何度も言われたものだ。

 家庭教師をするときはこの言葉をいつも使わせてもらってる。


「今日は英語やろうと思うから準備しておいてね」


「はーい、分かりました」


 一通り会話が終わったところで店員さんが名前の分からない機械を手に僕たちの所へとやってきた。


「あ」


 僕が注文しようとしたところで僕は固まってしまう。


「どうされましたかお客様?」


「あ、いや。なんでもないです。えーっと、このパフェを二つお願いします」


「フルーツ山盛りパフェをお二つでよろしいですか?」


「はい」


 店員さんは笑顔を浮かべてレジの店の奥の方へと消えていった。


「あの人、すごい綺麗でしたね先生」


「…」


 多分あの人だ、イケメン君が言っていたのは。

 注文しようと顔を上げた時、僕の瞳にはこの世のものとは思えない美しい女性がニコニコと笑顔を浮かべて立っていたのだ。


「先生?」


「ん、どうしたの?」


「もう見惚れちゃってるじゃないですか。しっかりしてくださいよ。私がいるっていうのに」


「はは、冗談やめときな。僕じゃなかったら勘違いしちゃうかもしれないよ」


 それにしてもこの店でも視線が凄い。やっぱりさっきと一緒で女性からの視線が多い気がする。

 あれか、俺みたいなやつが椎名ちゃんみたいな可愛らしい女の子といるのが不可解なんだな。


「それにしてもあの店員さん。先生のことのがん…いや、なんでもないです」

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