第2話 気づいてくれる

「お客様、終わりましたよー」


「あ、あえ?」


 僕は重たい瞼を持ち上げて目を覚ます。


「おはようございますお客様」


 どうやら僕は眠ってしまっていたらしい。瞳が赤い。普通に寝起きの顔だ。珍しいな僕がこういうところで寝てしまうなんて。


 …って、え?目が見えてる?!


 さっきまでは髪で隠れていたはずなのに、鏡が僕の顔をしっかりと反射して映している。


 僕の顔をこうもはっきりと見るのはいつぶりだろう。ずいぶん見ていないのは確かだな。僕ってこんな顔してたんだ。


「お兄さん、かっこいいお顔してますねー。思わずほれぼれしちゃいます。これは明日からモテモテですねー」


 このお兄さんは何を言っているのだろうか。たとえ僕が髪を切っても女子にモテルわけがないじゃないか。あくまで視界良好のための行動であって髪を切るくらいで女の子にもてるなら世の中の男皆が一斉に美容院に殺到するぞ。


「スッキリしました。ありがとうございます」


「いえいえ。僕もお兄さんをかっこよくできてうれしいですよ」


 ほんとこの人、聖人だな。恋人6人くらいいるんじゃないか。いや、それだとクズ男か。


 僕は代金を支払うと近くにあるらしきカフェへと向かうことにした。お兄さん曰くものすごく美人な店員さんがいるからナンパでもしたらどうかだとさ。


 僕にそんな度胸なんてあるわけないのだからもちろんナンパはしないが。相当な美人だと聞いて興味がわいた僕は人顔拝もうとカフェに向かっているわけである。


 それにしても陽キャの街は怖い。どこもかしこもピアスをつけたチャラチャラとしている男たちとキャッキャと騒いでいる女子たちの姿。


 いい陽キャもいるらしいが、基本的には…うん、怖いね。


 さっきから変な視線を向けられているし。特に女性の方々から。


 視界良好になってから周りの状況がよくわかる。僕を見た途端女の子たちは近くの仲間たちとひそひそと話し出す。


 どうせ僕の悪口でも言っているんだろう。たとえイメチェンしても陰キャは陰キャ。どうしても覆せない立場にあるある意味社会的弱者なのである!


 なんて自信満々に言えることではないんだが…。


 そんなことを考えていたら目的のカフェにたどり着いた。看板を見てみると『スターハックス』と書かれている。

 世界的に有名な企業じゃないか。ガラス張りされている大きな窓から中を覗いてみるとたくさんの人が座っている。


 今から僕はここに入るのか。なかなか緊張するな。どうか変な視線を向けられませんように…とお店の前で拝んでいると突然後ろから聞き覚えのある声がした。


「何をしているんですか?侑都先生?」


「え、椎名ちゃん?」


 僕に話しかけてきたのは僕のバイトとして家庭教師をしている花澤さん家の娘、椎名ちゃんだ。

 僕の二つ下の高校二年生であり、僕が通ってる大学に進学したいらしい。


「こんにちは侑都先生」


「え、僕って分かるの?」


 僕は今髪を切って椎名ちゃんに最後に行った時と姿が変わっているはずだ。


「もちろんですよ。普段から先生にはお世話になっているので、少し容姿が変わったくらいで分からないみたいなことはありませんよ」


「そうなんだ」


 なんだがくすぐったいな。容姿が変わっても僕だと分かってくれるんだ。


「それにしても先生、髪切っちゃったんだー」


 椎名ちゃんはなんだが都合が悪そうな表情をして僕のことを見つめる。


「何かあったんですか?」


「まぁ、ちょっとね」


「その反応は…なんとなく事情は察しました。でも大丈夫ですよ。私がいますから」

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