幼馴染に振られたからとりあえずイメチェンしてみた
ミナトノソラ
第1話 きっかけは突然訪れる
僕には好きな人がいて、その子はまるで天使のように周りから崇められて女子からは羨望のまなざしを、男子からは異性に向ける視線を独占していた。
名前は赤星 里穂という。僕と彼女の関係は幼馴染だ。幼稚園の頃に出会ってからこの大学に進学するまで彼女とは一時も離れたことはない。
あ、一時もってのは同じ進路先に進学していただけであって彼女と一分一秒たりとも離れていないわけではないぞ。
もう言わないでも分かるだろうが、僕の好きな人というのが彼女であり中学生の頃から片思いしていた。
彼女も僕に対していつも好意的に接してくれていたし、なんなら僕のことが好きなのではないかと勘違いしてしまうほど彼女の態度はいやらしかったのだ。
だけど僕はまだ彼女いない歴=年齢の万年童貞野郎だ。理由は単純。僕はモテない。特別美しい容姿をしていなければ、特別秀でた才能もない。髪型は目が隠れていてぼさぼさだし、とても女子から好かれるような男ではないのは分かっていた。
だけど僕は彼女、赤星 里穂に想いを伝えたくてしょうがない衝動に苛まれて行動した…
結果こうなった。
「はぁ、侑都となんか付き合うわけないでしょ。あんたみたいな不細工が私に告白するなんて10000年早いわ。少し友好的に接してあげていたからっれ勝手に思いあがらないでくれる?」
「あ、あぁ。ごめん…」
僕の心はズタボロだ。今まで大好きだった幼馴染に大嫌いだと拒絶されてしまった。優しく振ってくれていたならば結果は変わっていただろう。
でも僕が好きだった幼馴染は理想の人ではなかったらしい。ラノベの世界みたいに上手くはいかないんだな…。
正直期待していた自分がいた。こんな男でも彼女なら好いてくれているのではないかと。
でも裏切られた。
いや、裏切られたとはまた違うか。彼女が言うように僕が勝手に思いあがってしまった結果があれだったんだ。僕の自業自得だな。
返す言葉も見つからないよ。
「二度と話しかけないで。私付き合っている人がいるから侑都みたいなキモ男が近くにいると余計な勘違いされちゃうでしょ」
「分かった…わかりました。もう二度とあなたには近づきません」
「は?なんで敬語なの。キモ」
不思議な感じだ。赤星さんに罵倒されても何も感じない。
先ほどまでの悲哀の感情はどこへやら。
そうか、僕はもう失望してしまったんだ。僕に対する失望なのか赤星さんに対するのかは分からないけど、もうどうでもいいんだ。
僕は踵を返すと大人しく彼女から離れていく。振り返ることもせず、今から何をしようか考えながら。
赤星さんが最後に何か言っていたようだけど、僕が気にするようなことではないよな。
なんとなく最寄り駅に乗って辿り着いたのは多くの陽キャが集まるような繁華街だった。冷静になって慌てふためいた僕だが、どうせならと近くの美容院に入ってみる。
いい気分換えになると思うんだ。今は視界不良だけど、髪を切って世界を明るく眺めることが出来たら新たな恋も見つけることが可能だと思うんだ。
所謂イメチェンってやつだ。僕みたいな陰キャが一人勝手にイメチェンしても誰も怒らないだろう?
だって自由を象徴するような大学生だぞ。
「いらっしゃいませー」
中では如何にも学生時代に一軍を率いていたようなさわやかイケメンが僕を出迎えてくれた。
僕の髪を切ってくれるのはこの人かな。
良かったな僕の死んだ細胞たち、こんなイケメンにカットしてもらえるんだ。
今までみたいに1000円カットのおばちゃんたちとは格が違うからな。
「どうぞこちらに」
イケメンは僕のことを席に案内すると、さっそく話しかけてきた。
「随分と伸びてますねー。これはやりがいならぬ、切がいなんちゃって」
僕は思わず吹き出してしまう。
「そうですね。最近切ってなかったもんで。洗うのも一苦労ですよ」
「安心してくださいねお客様。僕の手に掛かれば明日からは世界が変わりますよ」
「それは楽しみですね」
「髪型はどうしますか?」
「うーん、ここはお兄さんを信じてお任せでお願いします」
「うわぁ、それは緊張しちゃうなー」
俺は思った。陽キャも案外悪くないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます