第14話 20××年12月19日・結論
さて前回から少し時間は飛び、19日の昼頃まで移る事となる。
地下室であるものを見た後、自分たちは無事各々の部屋まで逃げ帰る事に成功した。
自分は緊張で疲れてしまったのか眠ってしまったが、杏崎は眠ってしまった時から目覚めた時まで同じ姿勢で考え込んでいた。
声はかけずに部屋の外に出ると、ちょうど彼らも起きたのか坂東と横田が部屋から出てきていた。
「辻島さん、アンタも今起きたのか?」
「ええ、流石に徹夜が応えましてね…」
「杏崎さんは?」
「杏崎君はあの後から起きたまま考え込んでいるみたいです、徹夜は得意じゃないらしいんですがね。」
「アレを見たあとだしな、アイツは多分どうケリをつけるか考えてんだろう。」
「ええ、おそらく。」
「じ、自分たちはどうすれば良いんでしょうね…」
「待つしかないでしょうね、杏崎君が考えをまとめてくれるのを」
「そうか…また待つだけ、か。」
悔しそうな声を横田が漏らす。誰かが無惨にも殺された痕跡を見たあとだからこそ、より無力感に襲われているのだろう。
無言になり、そのまま階段を降りていく。
洗面所に向かおうとドアの前まで来た時、ドアが開いて誰かが出てきた。
「おう、3人とも寝坊か?」
それは神戸だった。つまり、あの時殺されたのは白烏氏だと私は理解する。
「まぁ…そんな所で。」
「なら良かったよ、探偵役も部屋だな?5人も起きてこねえもんでな、全員殺されちまったのかと思った。」
「自分たち以外で起きていないのって?」
探りを入れてみる、
「白烏のじいさんだな、探偵役を除けば現時点で唯一見かけてない。」
「部屋を覗いたりは?」
「する訳ないだろう、起こしてしまった挙句寝込みを殺しに来たと思われても嫌だからな。」
それはそうか、となった。もし覗いていたなら自分たちも訪問されているに違いない。
「この状況下に慣れてきてしまった自分が恐ろしいが、最悪の事態への覚悟をしとくべきだな、これは。」
「…そう、ですね」
「それにお前と探偵役は一度俺に警告に来ているからな、いよいよ信憑性を帯びてきたって訳か。」
「杏崎君は、きっと貴方を助けるはずですよ。」
そうか、と言うように否定でも肯定でも絶望でもない表情で頷いて、神戸は階段を登っていった。
空気はよりネガティブになってしまい、顔を洗って行動を別にするまで無言だった。
杏崎に声をかけようと部屋に戻ると、杏崎は流石にエネルギーが切れたのか倒れるようにして寝息を立てていた。
流石に起こすのはと思い、起こさぬよう部屋を出ようとした時、悲鳴が鼓膜を突き刺す。
バタバタとあちらこちらから走っていく音が聞こえる。
それによって杏崎が関節を無視したような動きで起き上がった。
「センセイ、今の悲鳴は…」
「おそらく…白烏氏の遺体が発見されたのかと」
「見てもいないのにそう言うって事は…神戸氏に会ったのか?」
「ええ、彼は生きていました。」
「ふむ…そっちを狙ったのか」
「向かいますか?」
「もちろんだ。」
身体を軽く伸ばすような動作をしてから一目散にドアから出ていく、自分もそれに続いた。
1回に降りると複数の声が玄関外から聞こえる。冷たい空気が肌を突き刺すが、先に着いていた人々の視線の先の光景を見るとそれも気にならなくなってしまう。
玄関の軒の上、十字架の大きいオブジェに白烏氏は磔にされていたのだ。
死体の全貌を確認すると共に、何故死体が発見されたのか理解する。
大勢の声に紛れて、ベートーヴェンの「月光ソナタ」がオルゴールの音色で聞こえてくるのだ。
そしてその音は死体の口に噛ませるように入っているオルゴールから響いていた。
杏崎に指摘すると
「随分と今回は酷いこじつけだな、終盤になって疎かになっているようにも感じる。」
「正直私も月に関する殺し方なんて見当もつきませんししょうがないとは思いますがね…」
「いいさ、もはや遺体に割く時間は無い。目的を済まそう。」
人をかき分け神戸氏に近づく、神戸氏もこちらに気づいたのか少し人混みから外れるように移動する。
「探偵役、犯人はわかったのか?」
「ああ、聞かせて欲しいかい?」
「いや結構、どうせ今夜でわかるんだろう。俺はネタバレが大嫌いでね。」
「随分肝が据わっているもんだね、流石社長と言ったところかな。」
「そういう訳でもないさ。ところで俺を尋ねたって事は何かしらあるのか?」
「あなたを守る為と
「構わない、俺はどうすれば良い?」
「僕とセンセイ、それと坂東君を貴方の部屋に隠れさせて欲しい」
「随分と力技だな」
「僕はホームズや明智小五郎ほど優秀じゃないんでね。未熟者のやり方さ。」
「そう自分を下げるな、俺より一回り下のお前に熟練なんぞそう期待するもんじゃあない。」
息を吐いてから神戸氏は話を続ける
「俺もな、昔は爺さんが当主の時のような神童らしさを求められたもんだ。今じゃ己で会社を立ち上げて離れたがな、子供時代は親に何をやってもそれ以上の事を求められた。未熟程度落ち込むことじゃあない、1人前より二人、いや三人前を求められること程辛いことは無いさ。親は俺の事をただの老後の安泰の道具にしか考えてなかったんだ。」
神戸氏は私の方を指さし
「俺からしちゃあ助手役、アンタは羨ましい。たとえ三文作家だろうと己の道を歩くアンタみたいに生きてみたかったよ。」
「それが茨の道だったとしても?」
「そうさ、俺は長としての器になれるようにしか歩ませて貰えなかった。茨の道でも、他のものになってみたかった。逃れきれず囚われたままの人生は辛いんだよ。」
神戸氏は自嘲気味に笑う。
「だからこそ、俺の爺さんの罪とはいえ復讐に囚われた生き方をしている
「もちろんだとも、そうだろ?」
杏崎が視線をこちらに移す。
「ええ、もちろんです。」
覚悟は決めた。役に立つかどうかを考えるより、動くことこそが重要なのだ、と。
時間はまた飛んで深夜、神戸氏の部屋にて。
杏崎はクローゼットに、自分はベッドの下へ。横田と坂東は杏崎に別件を頼まれていた。
神戸氏はベッドにいつも通り寝てもらっている。落ち着いて寝れるかは別として。
警察が来れるのは明日、
部屋の時計の音が大きく聞こえるほど空気が張り詰めている。明かりは付けられない為、時間を確認することは出来ない。一刻一刻と流れる時が妙に遅く感じた。
心臓の音をうるさく感じなくなってきた頃、不意に入口のドアが開かれる。
ゆっくりとドアが閉じられ、自分の潜んでいるベッドの方へ人の足が迫ってくる。
一歩、二歩とベッドに迫る、足音を極力消すように歩いているのだろう。それが近づく度に心臓が跳ねるように騒いでいる。
ついに完全にベッドに近づき、何かを行うためにシーツをめくる音がした刹那に思い切りその足を掴む。
「きゃ!?」
不意をつかれて狼狽したような犯人の声、それを契機に大きな音を立ててクローゼットから杏崎が飛び出す。
自分も掴んだ足を軸にベッド下から飛び出る。その力に引っられたのか、犯人が体制を崩し倒れる。同時に何か非常に軽い物が落ちる音がした。
「抑えるんだセンセイ!」
格闘技経験はないので、刑事ドラマの犯人の取り押さえ方を真似て取り押さえる。
「離せ!」
「それは無理だね、貴方の復讐を完遂させる訳にはいかない。」
犯人はもがきながら叫ぶ、フードを被っているためその表情は自分からは伺いしれない。
物音を聞いてか次々と人が集まり始める。
「僕の未熟さ故に貴方に辿り着くまで、多くの犠牲者を出してしまったよ。でもようやく突き止めた。」
部屋の入口に集まっている人々に向き直って杏崎がまるで演劇の役者のように語りかける
「君たちもよく見るといいよ。これが我々を7日間恐怖に落とした犯人、30年前の殺人事件の復讐者、そして天使邸の
そう言って犯人に近づくとそのフードを思い切り剥ぎ取る。
その素顔を見て、驚きの声が上がる。
「そうだろう?ツアーガイドの久野 夢さん。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます