第13話 20××年12月18日・5番目、そして
須藤氏の直接の死因は首を絞められた事による窒息死であった。しかし目をくり抜かれたことにより両眼の眼窩には目玉がなく、そこから血が流れて出ていた。
「一体なぜ目を…!?」
板東が震える声で疑問を漏らす。
「おそらくこれはこじつけだろうね。」
「こ、こじつけ?」
「この館に潜む復讐鬼、僕は
「5番目の天使は…
「闇をもたらす天使だけれど…目を奪うことで光を奪うという事なのかな。」
「そういやそういった宗教の話は聞いていたけど、結局ツアー自体が中途半端なせいで詳細は知らないままだったな。」
横田は思い出したようにつぶやく、その横で蘭堂も頷いていた。
「私もそうだな、大した話は聞けぬままことが起こってしまったな。」
ジョセフ氏もそう呟いた。イーサンもそれに同意するような態度を見せる。
「1日目にガイドさんから話を聞いていたのは自分たちだけでしたね。」
「そういえばそうか…」
「とりあえず遺体をどうにかしなければ…」遺体は玄関近くに倒れており、通行するのに不便であった。
「白線で囲っておくよ、誰か運ぶのを頼めるかな」杏崎は周りに目をやりつつ、自分にアイコンタクトを送ってきた。おそらく地下室を調べて欲しいのだろう。
「私たちがやりましょう。」それに応えたのは不動夫妻であった。
「大変でしょうし自分も手伝いましょうか?」と協力を申し出てみる。
「いえいえ、それには及びませんよ。」やんわりと断られてしまった。
「でもお2人だけですと何かと大変でしょう?明かりなども必要でしょうし。」
不動夫妻は少し考えた後、
「ではこの懐中電灯をお願いします。」と、懐中電灯を託してきた。
夫妻が担架に遺体を乗せ、地下に向かう後ろをついて行く。
地下には電灯がなく、また元は保存用のためか暖房器具も無いため寒さと暗さで薄気味が悪い。なおさら遺体置き場となっている今は余計にだ。
それなりに狭いのですぐに倉庫である部屋の扉の前にたどり着く。カギは無いようだった。
部屋の外から照らしているため、中はあまり良く見えない。ただ不動夫妻が30年前のことに関わっている以上、彼らに背中を見せるのはまずい気がして中に入っていく気にはなれなかった。
何となくではあったが、黒い布が被せられた物が4つあるのが見えた。空いたスペースに夫妻が須藤氏の遺体を安置すると、上から布を被せる。
ほぼ無意識的に手を合わせた。過去の所業がなんであれ、さっきまで自分達の目の前で生きて喋っていた人間が無惨に死んでいっていることに対する憐憫のような感情だったように思える。
地下から戻ると人はほとんどいなくなっており、杏崎が何やら横田と坂東に聞き込んでいるようだった。杏崎は足音に気づいたのかこちらを向くと
「戻ったのかセンセイ、ちょっと話を聞きたいから来てくれないかな?」
「わかりました、少し待ってください。」
懐中電灯をまだ返していなかったので返しておこうと振り返るが、管理人の2人は既にいなかった。
「しまった、返しそびれてしまった…」
「後で管理人室を尋ねればいいんじゃないかな、催促しなかったあたり必須という訳でも無さそうだし。」
「確かにそうか…」
忘れないように持っておこうとは思ったが、少々邪魔ではあるので上着のポケットに落とさないよう懐中電灯を入れておいた。
「さてセンセイ、地下の様子はどのような感じだった?」
「どのようなと言われても、という感じですが…中には入らなかったので詳細を見た訳ではないですよ。ただ、少なくとも4人分の足らしきものはありました。」
「中に入らないのはいい判断だよセンセイ、この状況なら僕だって警戒する。」
「でもそうか4人…いやでもやはり怪しいな…だが有り得るのか?」
「なにかありましたか?」
「いや、根拠の無い希望的観測だよ。僕にはまだこの結論に舵を切れないでいる。」
「何が足りないんです?」
「詳しくは言えないが、地下室に行く必要がある。だけどおそらく今はタイミングが違う。」
「タイミング、ですか」
「その時が来たら2人には協力を頼みたいんだ、良いかい?」
坂東は自信なさげに頷く、横田も表情は不満気ではあったが頷く。
「頼むぜ、お前を信じきってる訳じゃねえが、今だけはお前が頼りだ。」
「無論だよ。」
2人とは別れ、自分達は部屋へと向かった。
「正直、あと殺される2人はわかっているんだが僕は片方を救えないだろうね。」
部屋に入ってから杏崎はそうつぶやく、
「まだ出会って6日程度の私が言うのもなんですが、杏崎君も弱音を吐くんですねぇ。」
「そりゃあ僕だって人の子である以上弱音ぐらい吐くさ、まさか
そういう杏崎は少しムッとした顔をしていた。
「言われたんです?それ」
「似たような事をよく言われるんだよ、まったくなんだと思ってるんだか。」
「ダークマターとは言わずとも、ブラックホールから出てきたなんて言われても驚かない自信はありますね。」
「僕の知り合いと同じ事を言わないでくれよ」
「あははは…すいません。」
「まぁいいよ、とりあえず今は次に備えよう。」
「備えると言ってもこれからどうするんです?」
「下手に動いて殺されるのも避けたいけど、動かなすぎるのもね。シンプルに徹夜だよ。」
なんとも原始的と言うべきかアナログと言うべきか、
「て、徹夜…」
「僕も得意ではないけどね、でもこれしかない。」
「彼らにもノックをしたら動けるよう伝えてあるよ。我慢比べといこう。」
この時点ではだいたい午後6時頃である。
なおコーヒーなどの普段ならありふれているようなドーピングは無い。ただまぁ自分はカフェインの効かない体質なのであった所で大した助けにもならなかっただろう。
時計を見てはその針の亀の歩みのごとく遅い進み具合にため息をついていた。杏崎はと言うとドアに耳を張り付けたりして音がしないかを伺っている。
もはや時計を見るのも止めた頃、何度も眠りそうになるのを抑えるために、自分なりに情報を整理してみることにした。
1,犯人:仮称「
2,動機:30年前に天使邸で発生した清張松男氏殺人事件に対する怨恨
3,現時点での犠牲者:5名
4,被害者内で30年前の事件に関係を持つ人間:4名
5,予測される残った殺害候補:白烏氏、神戸氏
6,殺害方法:まばらだが、天使邸の土着信仰に基づいている。
ここまで整理してひとつ疑問点が浮かび上がった。
30年前の事件に関係を持つ人間が狙われているのなら明らかに狙われていない人間が2人いる。
そして、明らかに殺害される必要がない人間が殺害されている。
では犯人は…と浮かびかけた瞬間、肩を叩かれ現実に引き戻される。
「センセイ、物音だ。」
時刻を見ると0時を過ぎていた。
「本当ですか」
「ああ、間違いない。こちらも動き出そう。」
何も持たないのは不安なので火かき棒を忍ばせ、廊下に出る。明かりのない洋館の中はただでさえ不気味で仕方がない。
杏崎は音もなく坂東の部屋、次に横田の部屋に移動してドアを静かに3回叩く。
数秒して2名が部屋から出てくる。両者とも目に眠気が残っていた。
「無理をさせて済まないね。時間はそこまでないから早く行こうか。」
そういうと階段を音を立てず降りていく。自分たちも遅れてはならないと忍び足でついて行く。
1階も明かりはほとんどない、借りたままの懐中電灯も雀の涙と思える。
違和感として感じたのは妙な寒さだった。まるでドアが空いたばかりのような…
「なんか寒くねえか?」
「幽霊だろうね、今彼は外にいる可能性がある。」
「あ、あの…あれって…」
坂東が震える指でさす方向には、赤い跡が残されていた。
「血か…遅かったか…」
「また誰かが死んだって言うのかよ!」
語気だけ強く横田が杏崎に詰め寄る。
「僕だって見殺しにするつもりは毛頭無い。だが僕は未熟だ、だから6人も死なせてしまった。だから最後の一人は助ける為に、今決死行に望んでるんだ!」
睨み返しながら言い返す、悔しさの混じったような表情を見て少し頭が冷えたのか
「…すまねえな、こんな時間の無い時にキレちまった。」
「気にしてないさ。今は急ごう」
一行は地下室に向かう階段の前にたどり着く、そこで杏崎が待ったをかける。
「横田君はそこで待っててくれ、もし誰かが来そうならすぐに伝えて欲しい。」
「ここから地下室まで小声じゃ届かねえと思うが?」
「坂東君に中腹辺りに居てもらうから問題ないよ。危ない時は逃げてもらって構わないからね。」
言い終わらないぐらいで既に階段を下がっていってしまった。自分と坂東も後に続き、中間あたりで坂東はストップした。
地下室前まで降り着ると、
「センセイは部屋の外から懐中電灯で照らしてくれ、2人とも入ってしまうと坂東君の声が聞こえないかもしれないからね。」
と指示された。杏崎が開けたドアを閉じないようにしながら中を照らした。そうして見えた部屋の中のとある物を見て、自分は驚愕することになった。
その理由を語るとすぐに犯人がわかってしまうので一旦ここで私の視点を切らせて欲しい。悪手ではあるかもしれないが、エンターテインメント的には必要なのだ。
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