第43話 異世界でも女性って恋バナ好きみたいだな


 次の目標を鉄の剣に定めてソニアの方を見やると、さっきよりさらにトゲの多い棍棒を恍惚とした表情で眺めていた。


「それ買うの?」


 ちょっと引きながら聞いてみたら、


「欲しいですけど金貨10枚もするんですよ?買えません……」


 ちょっとシュンとしてる、そんなに欲しいんだ。


「借りたお金は近いうちに返すから、次はそれを目標に一緒に頑張ろう!」


「一緒に!そうですね、一緒に頑張りましょう!」


 なんか今の俺の言い方ヒモ男が言いそうな言い方だったな……


「小僧、そりゃあ駄目だ……男としてそれだけは駄目だぞ?」


 推定店主の人も勘違いしてる!これは俺の沽券に関わる否定しなければ!えーとソニアにお金借りてて、やすい賃料で居候してて、仕事も世話になってる……うん、深く考えたら駄目だね!


「さあ帰ろうか!一刻も早く!」

 

「あんっ、どうしたんですか急に?」


「良いから良いから、推定店主の人また来ます!」


「ワシは正真正銘の店主だよ!」





 武器屋を出て裏道を抜けて帰ろうと提案したら、凄い勢いで却下された。


「駄目です!」


「えー?なんで?」


「駄目ったら駄目です!」


 駄目だそうです……あとで聞いたところ道具屋街の南側の裏道に入ったところはスラムなんだそうな……そりゃあ駄目だわ。


 ソニアに却下されてしかたなく西門通りを中央広場の方に歩いていると、冒険者風の男女3人組がこちらに向かって歩いてくるのが目に入った。

 むこうもこっちに気付いたようで右手を挙げて、


「よう!初期装備の兄ちゃん」

「防具新調したのね初期装備くん」

「なかなかいい胸当てじゃねぇか初期装備!どこで買ったよ?」


「……フッカケン商会の向かいの「ガンツ武器防具店」だよ」


「おうサンキューな行ってみるわ!じゃあな初期装備!」


 会話を終えてすれ違う。


「すごいですねトーイ!もう認知されてますよ!」


「初期装備って名前でね!もう初期装備じゃないのに!」


「あはははは……」


 え、なに?俺はこれからずっと「初期装備」って言われ続けるの?呪いかなにかなのかな?

 今からみんなの認識を引っくり返す方法は無いもんか?


「ワイバーンさんでも狩って来るか?」


「どうやってです?私は行きませんよ?」


 冷たいこと言うのね……




 教会に戻って自室に向かう途中、神父さまとばったり遭遇、


「ああおかえりなさい、ほう、防具を新調したのですね良く似合ってますよ」


「ただいま帰りました、新調したのに初期装備って言われるんです……」


「どういう意味ですか?」


 経緯を説明すると神父さまもちょっと苦笑して、


「ははは、そういうところは昔と変わりませんね。まあ放っておけばそのうち飽きますよ」


「やっぱり放っておくしかないですか?」


「私達が現役のときも良くそうやって渾名を付けてましたよ。まあ悪気があるわけじゃないんです、放っておきなさい」


 わざとらしく項垂れた俺の肩を気軽にポンポン叩いて食堂に向かっていく……お茶でも飲みに行くのかな?

 自室に戻って鎧立てに防具を置き、ブーツを脱いでベッドにダイブ。そろそろ貰い物の服とブーツだけじゃなくて自分で日用品等は用意しないとなぁ


「今日も生きてた……疲れたなぁ晩飯まで寝よう」




  ─────────ください、ご飯ですよー」


 目を覚ましたら眼の前に美少女が居た。てか近いな……


「なんだソニアか」


「なんだとはご挨拶ですね?起こしてあげたのに」


「ごめんごめん、どこの美少女かと思っただけだよ」


 軽口を叩くように本心を言ってみる。


「そんな!美少女だなんて……ついにデレましたか?」


「デレてないから、寝言だよ寝言。夕飯なんだよね行こーよ」


 はぐらかして食堂に行くと、神父さまが珍しくお弟子さん10人ほどともう食事を始めていた。 


「遅れてすみません」


「いや、こちらこそ先に始めさせてもらっているよ?このあと彼らの修行を見なければならないからね」


「トーイの相手は私がしますから大丈夫ですよ〜」


 淋しく1人で食事じゃなくって良かったのかね?てか、気になっていたんだよな、


「もしかして俺って優遇されてる?」


 いい機会だし聞いてみた。ほぼ毎日神父さまと食事してるし、ソニアもべったりお世話してくれるし?


「トーイをって言うか落人をですかね?ケント寺院は初代法皇さまから3代目の法皇さままで、それぞれ落人の方に命懸けでお世話になってて、その恩は決して忘れてはならないって代々語られてきたんです。それは教義として残るほどの強固なもので、寺院として落人の方を支援するのは当然の事なんです。まあ限度ってものがありますので、なんでも許されるって訳では無いですけどね」


「つまりソニアが俺とパーティを組んでくれたのも?」 


 もしそうなら嫌だな……もしそうだと言われたら……


「え?いえ、ただトーイに一目惚れしたからですけど?落人相手だからって私は命までかけませんよ?私は恋に命をかけてるんです!」


 面と向かって「命をかけてあなたが好きです」って言われてグラッと来ない人っていないよね?赤面してうつむいてると、神父さまが咳払いして、


「ソニア、私達の前でよくそこまで言えますね?聞いてるこっちが恥ずかしくなるので控えなさい」


 あっお弟子さんたちも赤面してる。女性のお弟子さんは赤面しながらも、面白いものを見つけたって顔をしてるから、あとでソニアはイジられるでしょう。世界が違っても女性って恋バナ好きなんだな……


「あう……トーイがあんな事を聞くから」


 えー俺のせいなの?勝手に自爆しただけじゃん……


「まあ、ありがとう?」


「なんで疑問形ですか!」








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