第42話 「ガンツ武器防具店」


 西門通りは凄く賑わっている、武器防具だけじゃなくて生活用品などの店も軒を連ねていて、さらにふっかける商会ことフッカケン商会のカレント支店もあるので、一般人だけじゃなく冒険者も買い物に来るからだそうだ。


「ここだけの話この街の武器屋ってイマイチなんですって、ふっかける商会がダンジョからの拾得物を一手に買い取ってるから、どうしても品質的に1枚落ちるんだって神父さまが言ってました」


「それなら最初っからフッカケン商会に行ったほうがいいんじゃない?」


 率直な意見を言ってみる、何故かソニアはしたり顔で頷き、


「私も昔そう言ったんです、でも神父さまもアレックスさんも最初は武器屋で買うべきだって言うんです。なんでも、ふっかける商会はホントに吹っ掛けて来るので、値段が高くてある程度稼いでないと買えない。だから最初は武器屋で買って物の価値を覚えたほうが良いんですって!」


「なるほど、ていうかフッカケン商会ってそんなに吹っ掛けて来るの?」


「噂では売値が買取金額の倍らしいですよ?」


 それは吹っ掛けてるのか?そんなもんなんじゃないの?売れるかどうかも分からないものを、必ず買い取ってくれるんだから、儲けを出そうと思ったらそれぐらいの値段設定になるんじゃね?知らないけど。


「そういうことならその武器屋さんに行ってみよう」




 西門通りに面したかなりいい立地にその武器屋はあった、ただ真向かいにフッカケン商会があるという最悪な立地でもあるけど……


「うわぁ……みんなフッカケン商会に行っちゃうな……大丈夫かこの店?」


「ですねぇ」


 見事に閑古鳥が鳴いてる「ガンツ武器防具店」の店先でソニアと2人で話してると、


「大きなお世話だ」


「きゃっ!」

「うわっびっくりした!」


 後方から野太い声が急に聞こえてきて驚いて声を出してしまった。気配を感じなかったのに……


「お前らは客か?」


「え?あっはい、鎧を見に来ました」


「なら入れ……」


 ぶっきらぼうに言いたいことだけ言って店内に入っていく推定店主の人、俺とソニアはその人に付いて店内に入る。


 そこにはファンタジーの武器屋と言われたら想像するような、そんな光景が広がっていた。

 店内はディスプレイの見栄えをまったく無視して、かろうじて武器と防具を分けただけの棚が並んでいる。奥には店主が座るのだろうカウンターがある。

 

「小僧、魔法剣士だな?」


「そうですけど、でもなんで……」


「フン、噂はこっちまで流れてきてる」


 初期装備の鎧の噂か〜、多少無理してでも今日は鎧を買って初期装備とはオサラバしよう……


「魔法剣士ならこれなんかどうだ?」


 推定店主の人が指し示すのは、銀色に輝き左胸の部分に複雑な意匠が施されている見るからに高そうな胸当てだった。


「鎧ではなく胸当てだがうちで一番の品だ、盾が持てない魔法剣士は動きが大事だが、これなら動きを阻害することなく防御力を飛躍的に上げることが出来る。もともと魔法に対して耐性のあるミスリル銀製のうえ、左胸の意匠の効果で魔法耐性を上げているから魔法の防御も期待できる」


 さっきまでの態度が何なのかというほど饒舌になる。多分好きな事を喋るときは止まらなくなるタイプなんだろうな眼が輝いているもん。


「それはすごいですね!幾らくらいするんですか?」


「そうだな、小僧は初期装備で頑張ってくれているからな……それはワシの作品でな最低限の防御力を持たせたうえで、下手くそでも作れる単純な構造と量産性を実現させた結構な自信作でな、なかなか使ってもらえないのは寂しいものがあった」


「そうなんですね、お世話になってます?」


「おう、それでな精一杯勉強して金貨70枚だな」


「いや無理だから!初期装備使うくらい金無いんだよ!?」


 無茶苦茶な金額にソニアも目を丸くしている。そんな金あったらフッカケン商会に行くわ!


「そうか?おススメなんだがな……分割で買わないか?月金貨1枚の70か月払いと利子金貨10枚で頭金は兄ちゃんの持ち金全部。どうだ?」


「どんだけグイグイ来るんだよ!買わねーよ!」


「そうか、残念だな」


「金貨1枚と銀貨5枚くらいで何かありますか?」


 やっとこちらの予算を告げられた、この金額であるのかね?


「有るには有るな……魔法剣士は胸当ての方が動きやすいってのはさっき言った通りだ。そのうえで盾の代わりに小手を着けて、あとは肘と膝をガードするってのが一般的なスタイルになる。その金額だと鉄の胸当てはこっちが勉強してもちょっと無理だから、今使ってる鎧より硬い革の胸当てと同素材の小手あとは革の肘膝あてのセットで、本当は足が出るんだがさっきと同じ理由で勉強させてもらうって事で兄ちゃんの提示金額でいい」


 おお!言ってみるもんだね、フッカケン商会だとこういう割引は無いだろうから、そこはこういうところの良さだな。


「ありがとうございます。そのセットでお願いできますか?」


「わかった、今から兄ちゃんの体に合わせて調整するからこっち来い」


 防具の調整って時間かかるもんなんだね、たっぷり1時間ほど使って調整していく。でも、この工程が自分の装備を作ってるって感じで何とも言えない気分になるな。

 ソニアも暇なのか武器の品定めをしている。まああの回避力なら防具の更新はしばらく要らないから攻撃力アップをするのが正解かなぁ。


「小僧、終わったぞ着けてみろ」


 全部の装備を着用して細部のチェックをしていく。


「よし完了だ、お疲れさんこれでその装備は小僧のものだ」


「ありがとうございます、これお勘定です」


 代金を払ってすべて完了!これでもう初期装備の兄ちゃんとは呼ばせない!


「修理や再調整は別料金だから壊すなよ?」


「あっはい、気を付けます。あと買わないけど武器見て帰りますね」


「買わねーのかよ……ほどほどにしてくれるのなら構わない」


 愛剣の「駆け出しの剣」で今は困っていないけど次の目標を見繕っておきたい。


「ソニアお待たせ、何か良いのあった?」


「ああトーイ、終わったんですね。これなんかどうかなって、トゲの数が今のものの2倍なんです」


 トゲ基準なんだ……


「鉄の剣か金貨3枚……この+5って札なんだ?」


「初期装備の剣を基準に何段階上かの表記ですね」


 ああ、あれが基準なんだ。「駆け出しの剣」が2段階上って神父さまが言ってたから、これはそれのさらに3段階上ってことか……

 

 次はこれを目標にするか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る