第40話 生まれて初めての喧嘩


 職業訓練所を抜けてもソニアもイヨーナもずっと離れてくれなくて、ダンジョンに向かう他のパーティのヤロー共から殺意のこもった視線を受けてます……


「ソニアさんにイヨーナさん?ギルドも近いですし、そろそろ離していただけると嬉しいのですが?」


「あらあらソニア、離して差し上げたら?」


「いえいえイヨーナが離してあげたら?」


「あらあら」


「いえいえ」


「いいから離せよ!」


 


 結局離してくれないままギルドまで来てしまった……ソニアとイヨーナが開けたスウィングドアをくぐりギルド内へ、これ傍目から見て美少女2人侍らせたいけ好かない男にしか見えないよな。

 それで大体このせいで難癖付けられるんだよなぁ、


「おう兄ちゃん、いい女2人も侍らせて良い身分だな。なあおい!」


 ほらこんなふうに……見るとやたらマッチョなスキンヘッドの男が、ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべてこっちに向かって来てる。ソニアとイヨーナはマッハで俺の後ろに隠れやがった。


「そんなんじゃないよ……」


「ほお?そんなんじゃないなら、その2人俺に譲れよ」


「何言ってんだあんた?」


「なあに、兄ちゃんみたいな優男より俺みたいな逞しい男のほうが良いってさ。なあねえちゃん?」


 ん?そうなの?2人に振り返って見ると、ブンブン首を横に振ってる。


「違うみたいだね?」


「あん?照れてるだけだよ、だから兄ちゃんも邪魔せずに引っ込んでな。そうしたら痛い目を見ずに済むから、よっ!」


 なんか殴られそうな気がしたから頭をズラすと、さっきまで俺の頭があった辺りを、スキンヘッドの拳が通り過ぎていった。


「何いっちょまえに避けてんだよ?兄ちゃんは大人しく殴られておねんねしてな!」


 また殴りかかってきた、でも殺気も何もこもってないから怖くないな。これならゴブリンくんの棍棒のほうが数倍怖い……

 手のひらで拳を横から押して軌道を変えてやる。たたらを踏んだスキンヘッドは2度躱された事に腹をたててる様子。怒りっぽいな……周りは突如始まった喧嘩に騒然となっている。


「おーー!喧嘩だ喧嘩!どっちが勝つか賭けるぞ!」

「よっしゃ!初期装備の兄ちゃんに銀貨2枚!」

「俺はあの兄ちゃん気に入らねぇからマッチョに賭けるぜ!銀貨3枚だ!」

「あのマッチョの兄ちゃんルーキーらしいぞ?」

「それ先に言えよ!もうマッチョに賭けちまったぞ!」

「よーし初期装備の兄ちゃんに銀貨3枚だ!」

「トーイちゃんに銀貨5枚よ!」


 別の意味で騒然となってる……てかマーガレットさんも賭けてるよ……職員止めろよ……


「もう頭にきたぞ。オラ!」


 スキンヘッドが繰り出した左ストレートを右手で掴みながら体を反転させ、腰をスキンヘッドの腰の下に潜り込ませて跳ね上げる。それと同時に掴んだ右手を引きながら重心を前に倒す。学校の選択体育で習った一本背負いが炸裂した瞬間だった!

 投げられたのに受け身も取らず、背中をしこたま叩きつけられたスキンヘッドは悶絶している。


「きゃートーイちゃんかっこいい!銀貨5枚〜!」


「トーイステキー!」


「メグちゃん、アレックスさんに言いつけるからね?」


 これで終わりだよね?喧嘩なんかしたことないから終わり方が分からない……あっ立ち上がった、タフだな……


「もうキレた……ブッ殺す」


 腰の剣を抜きやがった!ただの喧嘩にマジか?周りも今度こそ騒然としている……よね?


「あーあ、抜きやがった。皆見たな?」

「ああ見た見た。おーい初期装備の兄ちゃん!先に抜いたのはマッチョだって皆確認したから、なんなら殺っちゃって良いぞ?」


 好き勝手言ってるな〜。スキンヘッドも周りの反応にさらに怒って斬りつけてくる。ん?これ当たんないよな?牽制か?


「はん!ビビって動けなくなってやがる!次は斬るぞ?今なら女と全財産で許してやる」


 えーと……つまり脅しなのかな?ちょっと頭にきた。俺も腰の剣を抜いてスキンヘッドの剣を弾き飛ばし、切っ先をスキンヘッドの鼻先へつける。あっちょっと刺さっちゃった……まぁ脅しになるからいいか。


「え?」


 スキンヘッドは事態を飲み込めていない様子で呆けてる。


「先に斬り掛かってきたのはあんただ……覚悟あるんだよね?」


 ニッコリ笑って聞いてあげると、スキンヘッドは脂汗をダラダラ流しはじめた。左右を見て誰も止める気配がないのを確認するといきなり土下座をして、


「すいませんでした!命だけは助けてくださいお願いします!」


 うわぁ……俺の全財産持ってくつもりだったくせにあつかましい奴だな……ちょっと脅すか?


「分かったよ、命だけは助けてやる」


「あっ!ありがとうございます!兄貴!」


 誰が兄貴やねん!調子いいやつだな……


「ただケジメとして右腕は貰うよ?命は助けるから良いよね?」


「え?ちょっ!マジ?」


 言うが早いか剣を右腕めがけて振り下ろす。スキンヘッドはそれだけで泡を食って気絶した。斬る気が無いことくらいは気付けよ……ダサッ


 それを見た周囲の連中が爆笑し始めた。

 これでいじられキャラ確定かな……悪いことしちゃったかな?





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