第35話 帰る方法


「彼女と初めて会ったのは、ちょうどジュタスとアルバがそれぞれパーティから抜けた後だった」


 ジュタスって神父さまだよな、あとは……


「アルバってどなた?」


 マーガレットさんが聞いてくれた。そうそうどなた?


「うん?アルバーイット・シュトラ・カ……えーとあとは忘れてしまったが、フルネームがとても長い奴だからね本人くらいしか正確には覚えていないよ。ははは」


「それで、アルバって私達が知ってる方なの?」


「あれ?君たち会ったことがあるはずなんだが?あいつ本人が昨日言っていたし。……ああそうかあいつは自己紹介を面倒臭がるから名前は知らないかもね。えーと「魔法剣士」マスターだよ」


 マスターってアルバーイット……なんちゃらって名前なんだ。それにアレックスさんとも知己なのか……

 そりゃそうか神父さまと同じパーティに居たんだからアレックスさんとも一緒にやってたか。


 3人が思い至ったのを見て取って、アレックスさんが話を進める。


「まあ経緯は話すと長くなるから省くが、彼女に1度会ってたことが縁でアルバの代わりのメンバーとしてパーティに加入した。そして彼女がパーティに加入した理由が、私達が次に攻略することになっていたダンジョンが城塞都市のダンジョンだったからだ、彼女の目的もそのダンジョンだったからね。なぜなら城塞都市のダンジョンの最奥に別世界に通じる方法があると彼女は情報を掴んだからだ」


「城塞都市のダンジョン……その最奥?」


「そうだよ、全52層あるS級ダンジョン「廻廊迷宮」の最奥だ。我々が制覇したときには2年かかったよ……当時、我々「bird of passage」より以前に制覇したのは「深淵」だけだった」


 あの伝説のパーティだけが制覇していたダンジョンを、2年かけたとはいえ制覇したアレックスさんたちもとんでもないんじゃないかな?


 そこら辺の事情に詳しい、ギルド職員のマーガレットさんは口をパクパクさせて、


「「bird of passage」って言ったら活動当時あちこちのダンジョンを、無節操に制覇しまくってたってギルド内では悪名高いあの?」


「はっはっは、当時は我々も若かったからね」


「初めて知ったわよ。ダーリンと神父さまと魔法剣士マスターがあの悪名高いパーティの中核だったなんて……未報告の未登録ダンジョン制覇が分かってるだけで9件、そのうちダンジョンコアの破壊によるダンジョン活動停止が6件、A級ダンジョンのダンジョンコア破壊未遂が3件にその他諸々。特に俺さまリーダーと腹黒司祭と暴走魔法剣士の3人は、ギルド内での要注意人物リストのトップに載ってたって」


「はっはっは、当時は我々も若かったからね」


 笑って誤魔化してる……てか神父さまもマスターのこと言えないじゃん、腹黒司祭って今の優しい神父さまからは想像できないけど。


「おっと、話が逸れたね……それでパーティに加入した彼女「カナメ」と一緒に「廻廊迷宮」を攻略し、最奥でゲートをくぐって別世界に行ったカナメを見送るところまではやったが、故郷に帰れたのかまでは分からないんだよ」


「「廻廊迷宮」にゲート……城塞都市、そこに行けばトーイが帰っちゃう」


 ソニアがボソッとつぶやく、しかしそれよりもアレックスさんの言葉に気持ちを持っていかれてた。帰る手がかり!それもかなり有力な。


「ソニア、すぐ城塞都市に行くよ!」


「トーイ……そんなに帰りたいですか?」


「ん?そりゃあそのために冒険者になったわけだし妹も待ってる。帰りたいよ」


「そうですよね。何言ってんだろ私?早くも手がかりを掴んだんですものね……」


 なんかさっきから元気がないな……


「ああトーイくん、いますぐに城塞都市に行くことはお勧めしないよ」


 アレックスさんが待ったをかける。なんで?


「なぜだ?って顔をしているね、はっきり言って君に「廻廊迷宮」はまだ早い。あのダンジョンは私たちでも攻略に2年かかったダンジョンだ。当時のメンバーはカナメも含めて、全員最低でもマスタークラスに達していた猛者ばかりだったよ。だが言っては悪いが君たちは冒険者になりたてのひよこだ、まだ君たちでは第1層を攻略することも出来ず逃げ帰ることになる。……いや逃げ帰るぐらいなら御の字で、多分死んでしまうだろう」


「そんな……せっかく手がかりを掴んだのに!」


 アレックスさんの無慈悲な言葉に、語気が自然と強くなる。


「トーイちゃん、ダーリンだって意地悪で言ってるわけではないのよ?焦る気持ちは分かるけど、冒険者の世界は急ぎ過ぎたら死ぬ世界なの。ここは力を付けてから挑戦したらいいじゃない?」


 マーガレットさんがやさしく執り成す。


「……ふう、そうですね……いきなり有力な情報を聞いてしまって焦ってしまったみたいです。ちょっと外で頭を冷やしてきます」




 

 庭に出て空を見上げて深呼吸をする、今日も2つの月が夜空を照らしている、綺麗だけどまだ見慣れないな……


「落ち着け……帰れる道が見えたんだ。マーガレットさんの言う通り、ここで焦って死んじまったら元も子もない」


 逸る心を落ち着かせて、冷静にこれからの事を考えてみる。


「アレックスさんはさっき最低でもマスタークラスと言っていたよな……なら、最低限の目標をマスタークラスになることにする。その為にはダンジョンに入らないといけない。なんだ結局やることは変わんないな……」


「トーイ……」


 家の方からソニアがやってくる、


「ソニア、どうしたの?」


「ちょっとお話をしませんか?」


 隣に並んで一緒に月を眺めて、


「トーイが落人でアースガルドに落ちてきてから、故郷に帰りたいと頑張っているところを見てます」


「うん」


「だから故郷に帰ってほしいと願ってはいるんですよ?でも、トーイと知り合ってからの時間は短いながらも楽しくて恋しくて、ずっと隣にいたい帰ってほしくないと思っている私もいるんです。私悪い子ですね……」


 ソニアがそっと抱きついてくる……またあの甘い香りが鼻腔をくすぐる、離れたくないと精一杯の強さと柔らかさで主張するように体を押し付けてくる。


「帰るにしても残るにしても私はトーイの隣にずっといたいから、私をトーイの隣に置いてくれますか?」


 上目遣いに潤んだ瞳で俺を見つめる、その瞳に吸い寄せられるように顔を近付けていこうとした瞬間、家の方から見られてる気配を感じる……


「トーイ?どうしました?」


 いつまで経っても来ない俺に業を煮やしたのか、ソニアが咎めるように聞いてくる、


「見られてる……」


「え?」


「アレックスさん!マーガレットさん!覗きなんて趣味が悪いですよ!」


 家の方に向かって声をかけると、2人が悪びれることなく、


「あら見つかっちゃった?気にせず続ければ良かったのに。ソニアも可愛いこと言っちゃって。もうキュンキュンしちゃったわよ!」


「いやー邪魔して悪かったね。しかしなかなか良いものを見せてもらったよ、若いってのは甘酸っぱいねぇ」


 うわぁ、俺は何もしてないのに恥ずかしい!隣を見るとソニアが顔を真っ赤にして口をムニャムニャさせている。ちょっとかわいい。

 

「あうう……うわ〜ん!」


 あっ逃げた……











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