第34話 食事会


 ソニアにマーガレットさんとアレックスさんが来たことを告げられたので、自室から出てソニアと2人で教会裏の玄関に向かう。

 そこでは、神父さまとマーガレットさんと見知らぬ男性が3人で談笑していた。


 その男性はグレーの髪をオールバックに撫でつけ、口髭をたくわえ紳士然とした落ち着いた雰囲気の人だった。


「あの人がアレックスさん?」


「そうです!メグちゃんがベタ惚れなんですよ。すっごくいい人なんです」


 3人に近付いていくと話しの一部が聞こえてきた、


「──────マッシュくんも相変わらずですね」


「いやん!神父さま、その名前で呼ばないで!マーガレットって呼んで!」


「はっはっはっ、マーガレットや良いじゃないかね。その物言いもジュタスらしいじゃないか」


 おお、声もシブいな。てかマーガレットさん本名マッシュっていうんだ。


「あんもう!ダーリンもそんなこと言って意地悪!」


 あらま、あのマーガレットさんがずいぶん甘えてるよ。


「すいませんお待たせしました」


 遅れて来てお待たせしたことをお詫びする。


「いやいや、そんなに待ってはいないから気にすることはない。君がトーイくんかな?」


「はい、杉田 塔衣と言います。杉田が名字で塔衣が名前です」


「はじめまして私はアレックスという。マーガレットから君の事を聞いて1度話をしてみたくなってね、いきなり食事に誘ってすまなかったね」


 物腰の柔らかい懐の深そうな人だな……神父さまとあまり変わらない年齢に見えるしやっぱり年の功かね。


「アレックスさんは私の冒険者時代のパーティリーダーでもあります。まあ昔なじみみたいなものですね」


「フフフ、ジュタスもその説明グセは変わらないね」


 なるほど、だからさっきから気安い雰囲気があったのか。


「アレックスさんこんばんは!」


「やあソニア、いつもマーガレットと仲良くしてくれてありがとう」


「さぁ全員揃ったし行きましょう!腕によりをかけておもてなしするわよ?」


 マーガレットさんの号令一下、出発することになった。


「神父さま行ってきます。お土産貰ってきますね!」


「そんな事はいいから楽しんできなさい」






 アレックスさんとマーガレットさんのお宅は、閑静な住宅地に有りソニア曰く高級住宅地だとか。


「ようこそ我が家へ!今からお料理仕上げてくるから待っててね♡ダーリンあとはお願いね?」

 

「ああ行っといで」


 マーガレットさんの頬にアレックスさんがキスをして送り出す、おおアメリカの映画みたいだな。


「私も手伝いますよ」


 ソニアも付いていこうと駆け出したが、一旦立ち止まりこっちに戻ってきた。そして俺に対して頬を向けて人差し指でトントンと頬を突いて何かを催促する。チューしろってか?


「いいから行ってこい」


 チューする代わりにおでこをデコピンしてやると、ソニアは不満そうに唇を尖らせ、


「ぶー、ケチ」


 とひと言残してマーガレットさんを追いかけていった。


「はははは、ソニアも君にご執心のようだね。まあ旧知の愛弟子だ、出来れば泣かさないようにしてほしいかな?」


「どうなんですかね……故郷では平凡を絵に書いたような男だったんですよ?それがいきなりイケメンだ一目惚れだと言われても信じられませんよ……」


「なるほど、私も2人ほど落人には会ったことがあるが、彼らも確かに美的感覚や価値観がアースガルドの人間とは違っていたな」


 落人に会ったことがある?ならもしかしたら!


「それでしたら、落人が故郷に帰った話を聞いたことがありますか?」


「その事も君に会いたかった理由の1つだよ、結論から言うと落人が故郷に帰った話は知っている」


「それはどういう話ですか!?」


 勢い込んで聞いてみるとアレックスさんが落ち着かせるように俺の肩を叩いて、


「まあ落ち着きなさい。私は逃げたりはしないからまずは食事にしよう。マーガレット自慢の白身魚のパイ包み焼きはポルチーニソースが絶品なんだよ?」


 ウインクしながら惚気を聞かせてくる、まるで焦るなと言うように……

 確かに焦っても仕方ない……落ち着いて話を待とう。





 マーガレットさんの料理はアレックスさんが絶賛するだけあって大変美味しゅうございました。

 食後のまったりした時間を俺だけやきもきしながら過ごしていると、アレックスさんもとうとう苦笑しだして、


「さて、トーイくんも話を聞きたくてそわそわしてるようだからそろそろ例の話を始めようか?」


「例の話?なんの話ですトーイ」


「故郷に帰った落人の話だよ」


「え?トーイ帰っちゃうんですか!?」


「いやいや、最初っから帰るって言ってんじゃん!」


 ソニアがちょっとショックを受けてるっぽい、それを見てアレックスさんはソニアの頭を撫でながら、


「さっきは故郷に帰った話と言ったけど、正確には帰れたかどうか分からない」


「どういう事ですか?」


「実際に送り出しはしたが、無事に帰れたかどうかはわからないからね……」


「ダーリンが送り出した?」


「そうだよ、私が会ったことがある2人目の落人はパーティメンバーだったからね」


 衝撃の事実!ってこれは確実なニュースソースだな、しっかりと話を聞こう。




 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る