第30話 トーイはパーティの壊滅に遭遇する


 ソニアも戦えることが分かってから、俺たちの戦い方に少し変化が生まれた。

 2人で積極的に前に出てどちらかが囮として敵を引き付け、その間に敵の足を斬り付けるなり棍棒で殴って骨を折るなりして動きを止めて、ほぼ全員の行動を封じてから1体ずつトドメを刺していくという外道のようなスタイル。

 

「結構この戦術使えるな、まあトドメを刺して回るのは心にクルものがあるけど」


「まあ安全確実が1番ですから。避けるのだけならどうとでもなりますし……」


 特にソニアの回避盾としての適性が抜群で、かなり戦闘が安定するんだけど……ネックなのが、ソニアはこのパーティの生命線である回復役だということなんだよな。しかもまだ回避しながらの詠唱が出来ないという弱点もある。


「ソニアも攻撃避けながら物語語ってみる?」


「模擬戦するときにしましょうよ……」


 ソニアの適性試験のあと5回ほどの戦闘をこなした、運の良いことにそんなに大人数の集団と当たって来なかったのだが、遂に集団と遭遇してしまった。


「ゴブリンくん7匹……無理だな逃げるぞ」


「不意討ちでやれませんか?」


「駄目だ、そんなリスクを犯さなくてもよくね?」


「りょーかいです」


 音を立てないように後ろに逃げる。しばらくあっちの方面は行けないな。ちょうどいいや、


「結界を張って休憩しないか?」


「そうですね、ちょっと疲れたし……」


 ギルド章に付与された能力のうちの1つ簡易結界を発動させる。これは短時間でごく狭い範囲ながら攻撃性のあるものは敵味方問わず全て弾くもので、探索中の休憩にもってこいのものである。


「しかし何だろうなこのギルド章ってやつは、便利過ぎるだろ……」


「そうですね、でもあまり興味を持たないほうが良いですよ?噂ですけどこれを解析しようとした学者さんが、ギルドから討伐対象にされたとかなんとか……」


「おっかないなぁ」


 何気に闇の深い組織だなギルド……盗聴してないだろうなこれ?


「今日は昨日よりもかなり稼げてるんじゃないか?」


「今のところ……銀貨12枚にひのふの……銅貨21枚です」


「じゃあ山分けして銀貨5枚ずつと銅貨8枚ずつに分けて、あとはパーティ資金にしよう」


「計算早いです、えーとじゃあ今のところパーティ資金は全部で銀貨3枚と銅貨4枚ですか?」


「惜しい、銅貨5枚だな」


「ありゃ、えーとホントだ……」


 暗算ってそんなに難しいか、たまに抜き打ちで問題出してみよう。


「回復魔法はどれだけ残ってる?」


「今日レベル上がりましたから上限回数が増えて、5回唱えることが出来るようになりまして残りはあと2回です」


「なら、あと1回戦ったら帰ろうか?」


「そうですねそうしましょう」


 しばらく雑談しなから体力回復に努める、そして程よい所で休憩は終了。


「じゃあ結界解くぞ」


「どーぞ」


 結界を解いて周囲を警戒する。敵はいないようだな……


「さっきの方に行ってみるか?」


「いいですよ~」


 後方を警戒しながら進んでいると前方で、叫び声と金属がぶつかる音が聞こえてくる。戦闘の音かな?


「前の音、戦闘かなこれ?」


「そうだと思いますよ」


「他のパーティの戦闘って見たことないから見学しねえ?」


「邪魔したら駄目ですよ?」


 もしかしたら高位の魔法とか見れるかもしれないし、1回多対多の戦闘は見ておきたい。

 戦闘の音が聞こえる方へゆっくり向かっていると、


「ぎゃーー!」「きゃー!リックーーたすけぐぇっ」「リックさん!?サマンサさん!?いやーー!」


 これ人間の叫び声だよな?


「ソニア!行くぞ!」


「はい!」


 前方へ駆け出した。ほどなくして戦場に到着、ゴブリンくん5体と人間が2人倒れている先で、1人の女の子がゴブリンくん2体と戦っている。


「おーい!加勢いるかー!?」


「お願いします!助けてー!」


「ソニア!俺が引き付けるから女の子の回復を!」


「はい!」


 ソニアに女の子の回復を指示、ゴブリンくんに一当たりして注意を引きそのまま少しずつ離れていく。その間にソニアが女の子の方に駆け寄る。


「回復魔法を2回かけました、女の子は無事です!これで魔法は使い切りましたのでケガしないでくださいよ!」


「ゴブリンくんに言ってくれ!よし、1匹止めたトドメ頼む!」


「了解!あと一歩です気を付けてください!」


 何とかなりそうだな。ほどなく最後のゴブリンくんの動きも止めてトドメを刺す。

念のため最初の5匹も確認してソニアと女の子の方に合流する。


「その2人は?」


「もう……」


「そうか……」


 モンスターの死体には大分慣れてきたけど、人の死体は初めて見る。それが惨殺死体ってのもきついなぁ。女の子は縋ったりはしていないが涙を流してる。


 ギルドの規約的には連れ帰れるなら連れて帰ることとある……蘇生ができる世界なんだから当たり前の話だ。


「もう地上に戻るけど君たちも一緒に来るかい?」


「いいんですか!?ありがとうございます!1人でどうやって連れて帰ろうかと困っていたところでして……」


「ゴブリンくんの収入は俺らが貰うけどいいかな?」


「……はい、しょうがないです。助けていただかないと私は死んでましたし……」


 これ言わなかったらこの子が全部持って行ってたな……抜け目ないな。




 地上に戻ると、2人の死体は兵士さんがケント寺院に連れて行ってくれた。そこで神父さまに蘇生してもらうのだろう。


「俺達は教会に行くけど君は?」


「私も行きます」


「そうか……俺は杉田 塔衣、杉田が名字で塔衣が名前ね、この子はソニア。君は?」


「私はイヨーナです。ありがとうございましたトーイさん!ソニアさん!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る