第29話 天稟


 ランタンの光がほのかに前方を照らしている。スマホの光と比べると心許ないけど目立つよりもいいだろうし、バッテリーの減りが心配……てか81%から減らないんですけど……何で?


「昨日と同じ右側の通路を行くぞ?」


「お任せします……」


 うわぁ……緊張感がこっちにまで伝わってくる……ソニアだったら教会の本部で修行出来るんだから、冒険者に拘らなくてもいいだろうに……


 無言で通路を進んでいるとオーク先輩と思しきシルエットを3体発見した。どうも談笑してるっぽく周囲を全然意識してない……


「俺が2体引き付けるから1体を相手してくれ。無理はせずに防御を中心に考えろよ?」


「分かりました行きましょう。私だって殺れますから!」


 気負ってるな……まあソニアばっかり気にして自分が殺られたら洒落にならない。こっちも集中だ!


「行くぞ?」


「はい!」


 言葉の勢いとは裏腹に、気付かれないようにゆっくりと近付いていく……相手の方が多いんだから不意討ちで減らしときたいよね?


「ブギ……」


「ブギブギ」


「ブキギー」


「「「ブギャーー」」」


 先輩たち楽しそうだな……お楽しみのところ悪いけど殺らせてもらうよ?


 俺は愛剣の「駆け出しの剣」を腰溜めに構える。ちなみにソニアの得物は、こないだ俺を撲殺しかけたトゲ付きの棍棒で、それを肩に担いでるから振り下ろして先輩の頭を殴りつけるつもりだろう。てかソニア普通に殺れそうだな……


 お互いの顔を見合わせ頷いて、タイミングを合わせて攻撃をする。


「ブギィ」


 背中から胸を刺し貫かれたオーク先輩の手が、虚空を掴みそのまま倒れる……倒れた先輩の首を剣で刺すことでトドメを差してソニアの方を見ると、倒れたオーク先輩を滅多打ちにしているソニアが目に入る。まあそうなるよね……


「ソニアもういい!あと1匹だそっちに行った!」


 ソニアの方に駆け出しながら声を張り上げる。

 ソニアがハッと顔を上げて左右を見回し、オーク先輩が自分の方に来てることを確認。迎え撃つように棍棒を構える。


「プギギー」


 先輩が手に持っている錆びて刃が欠けている剣を上段にかまえて、あんなもの喰らったら破傷風になってしまいそうだな……体重を乗せて振り下ろした。

 それを棍棒を構えたまま1歩後ろに下がって紙一重で躱すソニア……あれ?

 その後も滅多矢鱈に斬り付ける先輩の剣をヒラリヒラリと全て紙一重で躱すソニアさん。あれれ?


「トーイ!いつまで見てるんですか!早く助けてください!」


 ソニアさんから助けを求める声が飛んでくる、でもこれ助け要るか?


「えっと……ソニア自分で倒せないか?」


「避けるだけで精一杯です!」


 そうですか……避けるだけでも凄いけど……今のどうやって避けた?


「そういうことなら、はああ!」


 ソニアに攻撃を躱されて体勢がくずれたところで、足を全力で斬り付けて動きを止める。ついでにもう片方の足と両手も刺して完全に動きを封じる。ってゴメンネ先輩。


「ソニア、トドメを」


「え?私がですか?」


「そう、ソニアにやってもらう。さっきは勢いで殺れたかもだけど、今度は有利な状況で殺してもらう」


 これも見極めないといけない事だろう……


「うっ……殺らなきゃ駄目ですよね?」


「別に殺らなくても良いよ?」


「良いんですか!なら「出来なかったって神父さまに報告するだけだから」やります……」


 ちょっとイジワルだったかな?でも自分で選ばなきゃいけない事だろうしなぁ。


「ごめんなさいね」ゴスッ!


「ゲッ」


 的確に頭を潰された先輩は断末魔をあげて動かなくなる。


「出来たねおめでとう、で良いのかな……?」


「ありがとうございます。合格ですよね?」


「もちろん!てか凄かったな……」


 ヒラリヒラリと蝶々みたいに躱してたな。


「あれってどうやって躱したんだ?あの振り下ろしからの斬り上げ」


「あれですか?ブンッて振り下ろされたあと、オークの左肩がグッてなったからスッて体をズラしただけですよ?」


 なんて?もう1回聞いてみよう……


「じゃあ、突進からの突きのあとの横薙ぎは?」


「ダンッて来たのでスイッて躱したら、オークの右足がグンてなって、その時右肘がクイッてなったからトンって下がりました」


 なんでそんな事聞くのって感じでソニアが不思議そうに解説?してくれる……


「うん分からん。ソニア天才だわ」


 多分天才によく聞く、説明するけど何故相手が理解できないのか理解できない状態なんだろうな。


「まあソニアも殺れるって分かったから、もうちょっと稼ごうか?」




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