第28話 天の声


 疑問に思ったお金の価値を、神父さまが説明してくれる。


「簡単に言えば銅貨1枚で私たちが食べてるパンが2個買えますね」


食事の時に毎度食べてるあのパン2個でか……多分日本なら4個入り200円くらいか?なら銅貨1枚で50円×2個で100円。


「そして、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚と上がっていきます」


 あとの計算は簡単だな、銀貨1枚で1,000円、金貨1枚で10,000円か……ということは今回の稼ぎは合計5,600円也、命を懸けたにしては安いな。しかも今回は短剣の売却益があるから本当なら3,600円か……


「例えば宿屋に泊まるとしたらどれくらいかかりますか?」


「え?トーイ教会を出るんですか!?」


「例えばだよ例えば!」


「値段を選ばなければ金貨が必要になります。冒険者が泊まるような宿なら素泊まりで銀貨4枚、朝晩の食事込みなら銀貨5枚くらいが相場ってところですかね。長期滞在なら交渉次第で割引もありますよ?」


 さすが神父さま元冒険者、分かりやすい解説アザス!第1層で黒字出すならもっと頑張らないとな。装備の更新費用の貯金もしなきゃだし……そうだな、


「神父さま、お聞きしたいことがいくつかあります」


「どうしました?改まって」


「こうしてなんとか稼ぎを出す目途が立ちました、これからはお金をお支払いしようかと思うのですが、おいくらほどお支払いしたらいいですか?」


「気にしなくてもいいと言いたいところですけど、あなたにも矜持があるでしょうし、こちらの金銭感覚を養う必要もありますね。そうですね……1日銀貨2枚でどうですか?」


「助かります、ありがとうございます。それと、神父さまのいたパーティでは装備の更新の費用は個人負担でしたか?パーティ費用みたいなものを積み立てしてましたか?」


 これはよくわからないから先人に聞く方がいいと思った。個人負担なら少し多めに分け前をもらえるように交渉しなきゃだし。


「そうですね、それぞれですかね……パーティ資金で買う場合は所有権はパーティにあります。それを気にしない人はパーティ資金で買ったものを使ってましたし、愛剣は自分でお金を出して買うって人もいましたね。ちなみにパーティ資金はその日の儲けやそれぞれのクエスト報酬から、一定割合徴収してプールしてましたよ?」


 なるほど、今はパーティ資金も無いし自分で買ったほうが良いな、特に鎧は早急に買い替えたい……







 朝起きたら意識に直接何かが語りかけてきた……


『あなたはレベル2になりました』


 何これ?何これ?何これ?気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!


「ソニア!ソニア!ソニア!ソーニーアー!」


「なんですか?トーイそんなに慌てて?」


「なんか頭の中で声がした!何これ!何これ!」


「ああ、天の声ですか?トーイもレベル上がったんですね!私も初めて聞きました、嬉しいですね!」


 レベルアップ?天の声?なにそれ?


「そうか、知らないと気持ち悪いかもしれませんね」


「神父さま、なんですか天の声って?」


「レベルが上がったことを知らせてくれる声です。大体朝起きたときに知らせてくれる事が多いですね。ちなみに正体や原理は不明でアースガルド七不思議の1つです」


 またアースガルド七不思議かい!


「しかしやはり2人しかいないパーティなので成長が早いですね。フルメンバーのパーティだったらこうはいきません」


「そんなものですか?」


「6人と2人では戦闘での緊張感が全く違います。そしてその緊張感が、より早い成長につながるというのが定説です。実際フルメンバーなら2回くらいの実戦ではレベルアップしてなかったと思いますよ?」


 それなら少人数でダンジョンに入ったほうが合理的だと思いがちだけど、そうなると多対1になりやすかったりと死んじゃうリスクが増える。

 いくら実入りが良くても死んじゃったら意味がないから、出来るだけ安全を確保するためにメンバーを増やしてダンジョンに入るわけか……なるほどね〜


「メンバー増やすことを考えなきゃいけないなぁ。今日次第ではソニアが抜けるかもしれないし……」


「なんてことを言うんですか!抜けませんよ!?」


「だとしても、少なくとも「斥候」は入れなきゃじゃん?ソニアも言ってたからな」


 前衛としても、これから必要になってくるカギ開け要員としても「斥候」の勧誘はマストだろう。


「レベルアップしたとはいえ、今日の探索でソニアの適性を見るのは変わりません。その結果次第では冒険者は辞めてもらいます」


 神父さまの言葉に表情を険しくし、


「はい……」


 と一言だけ返事をした。





 食事のときも武装してダンジョンに向かう最中も、ソニアはずっと無言を貫いてる。いつもの朗らかなソニアらしからぬ厳しい顔が緊張の度合いを物語っている気がする……


「最初の戦闘でソニアには前に出てもらうけど、1対1でやり合えるように出来るだけフォローするから」


「はい……お願いします……」


 ソニアには感謝しかないから死んでほしくない、厳しく見極めよう……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る