第26話 直弟子
マスターに促されて「魔法剣士」の道場に入ると、隅にあるテーブルとイスのところを示して、
「お茶を出すから座っててくれ」
「お構いなく」
「ハハハ、なんだい遠慮は要らないよ」
「では遠慮なく。お茶菓子はありますか?」
「ほんとに遠慮しないね?」
しかしマスターが気にかけてくれてたとは思わなかった、もっとビジネスライクな感じかと思ってたから。具体的には金貨3枚分……
「はいどうぞ」
「ではいただきます」
「いただきます?」
説明からの感心されてのいつもの流れ、ホントにこっちは感謝の気持ちが足りない気がする。
「では、改めて聞くけど初陣はどうだったかな?」
「命のやり取りにビビって教えてもらった事の半分も出せませんでした……」
「うん元々君は素人だったんだ、いきなり命のやり取りは難しいよ。それよりもよく殺せたと感心するくらいだ。初陣で死ぬルーキーの中には、殺すことが出来なくて逆に殺られちゃうのも居るからね」
「1度不可抗力ですけど、ゴブリンくんを殺してますからね。経験はありますから……」
カバンストラッシュの餌食になったゴブリンくん Aを悼んで、ラーメン、違ったアーメン
「なるほどね、それから?」
「不意討ちで倒したつもりになってトドメを刺さずにいたら、相手の最後の一太刀を受けかけました」
「それは良くないな……トドメは大事だ、乱戦なら仕方ないが少人数戦闘なら極力トドメを刺すこと」
「はい痛感しました、咄嗟に飛び退きましたのでかすり傷で済みましたが、まともに受けてたらと思うとゾッとします」
今思うと俺はダンジョン探索を舐めてたフシがある。小説やゲームのダンジョン探索みたいに相手は倒されるべきエネミーで、自分はそれらを倒して普通に生き残るのだと思い込んでた。
でも実際は相手も生き残るために必死で俺を殺しに来る、隙を見せたらそこに喰らいついてくる。俺には危機感が足りなかった……
「まあ生き残ったんだ、それらの反省点は君の血肉になる。それでどうだい?続けられそうかい?」
「……続けます。故郷に帰る手がかりを求めるにも動きやすい身分は欲しいですし、元手のない俺には冒険者しかありません」
「まあ命がけの割には浅層は実入りが悪いけど、深層に行くほど稼げる職業だよ。……生き残ればね」
疑問が1個ある……どうしても理解できない疑問が。丁度いいしマスターに聞いてみるか?俺は姿勢を正して、
「マスター、1ついいですか?どうしても理解できないことがありまして」
「どうしたね改まって?」
「なんでダンジョンのモンスターがお金を持っているんですか?どう考えても理解も納得も出来なくて……」
「うん、落人ならその疑問はもっともだ、しかしそれはアースガルド七不思議の1つだから誰にも分からない……分からないんだ……」
マスターが苦渋に満ちた表情をしている、なにか心の傷に触れてしまったのかもしれない。これ以上はこの件に触れない方がいい気がする。
「ではですね、敵が突っ込んで────────
そこからは技術的な疑問点をいくつか質問して教えてもらった。
「さっきも言ったが転職組と違って君は私の直弟子だ、出来れば死なずにいてくれると私もうれしい。たまに遊びに来なさい。」
「ありがとうございます。また寄らせてもらいます」
マスターにお礼を言って辞去する。気付けばもう夕方になっている、南門へ向かいながらダンジョンの事を考えていると門の方から声が聞こえてくる。
「もうすぐ閉門ーー!街に入るものは急いで門内に入るように!」
げ!急がないと締め出される!
「ちょっと待ってくださいーー!入ります!」
「ほら!急げ!閉めちまうぞ!」
危ねー!あのままマスターのところに長居してたら締め出されてた。マスター知ってて教えてくれなかったな?
何とか閉門前に街に入れたのでそのまま教会へ帰っていった。ソニアは戻ってるかな、マーガレットさんところに行ってたりしてないかな?
「ただいま帰りましたー」
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