第23話 「遥か彼方」


「トーイちゃん……本気で言ってる?」


 「深淵」そのパーティ名候補を口にしたときのマーガレットさんの言葉……それと同時に周囲がザワザワしたかと思うと、「ドッ!!」と爆笑に変わる。


「ぶわっははは!よりによって「深淵」だってよ!」

「恐れ知らずだねぇ!ルーキーが「深淵」だって?ガッハッハ」

「クスクスフフフ、でも知らないみたいよ?笑っちゃ悪いわよ」

「無知とは怖いねぇ……知ってたら恐れ多くて名乗れねぇよ」

「ハッ!優男がデカい口を叩く」


「そっか、トーイちゃん落人だったわね……」


 意味が分からずアタフタしていると、マーガレットさんが解説してくれた。


 「深淵」


 それは活動当時エギンス王国で最高のゴールドランクだったパーティの名前だった。

 王都の大迷宮、前人未到の59層到達の偉業だけではなく、屋外未踏破地区での稀少種の採取や保護、当時エギンス王国国内最大の密輸盗賊団だった「スプリガン」の壊滅と癒着していた複数の貴族の掃討の指揮、帝国との戦争「二年戦争」の終戦協定締結への尽力、国王杯争奪大喰い大会の個人の大会記録と団体での連続入賞記録の保持、と活動に制限がなかった。ちなみに個人記録は現在も破られていない。


「ある意味伝説のパーティの名前を名乗ろうとしてたのか……」


「トーイちゃんはともかく、なんでソニアが知らないのよ?」


「だって冒険者に興味無かったもん……」


 周りはいまだに爆笑の渦に巻き込まれている、ちょっとイラッとしてきたので怒鳴っちゃおうかな〜と思っていると。マーガレットさんがドスの効いた声で、


「おうてめぇ等、何時まで笑ってやがる!静かにしやがれ!」


 と一喝、周囲がしーんと静まり返る。マーガレットさんに睨まれた1人がツーッと目線を逸らす……

 オー!すげぇと俺が拍手していると、マーガレットさんがウインクで返してくれる。


「トーイちゃんそれでどうする?決まり的には「深淵」を名乗っても大丈夫よ?」


「いやいやさすがにそこまで厚顔無恥にはなれません!別のにしますよ」


「ん、そうね……そっちのほうが無難ね」


 とはいえどうしようかな、「深淵」でほぼ決めてたから次点を考えてなかった……


「ソニアは何か無いかな?」


「うーん……ホントにこだわり無いんですよね……じゃあ「トーイとソニア」とかってどうです?」


「いやいや、斥候増やすって言ってたじゃん!そんな名前のパーティ、その人が居た堪れないよ?」


 なんちゅー恐ろしイタい名前を付けようとしてるんだ。


「え〜?それならトーイに任せますよ〜」


 うーん、困ったぞあまりマーガレットさんを待たせるのも申し訳無いし……

 どれにしようかな~、よしこれでいいや!


「「遥か彼方」にしますソニアもこれでいいか?」


「どういう意味です?」


「俺は落人だから遥か彼方から来た、そしてこれからパーティとして今よりも遥か彼方へ向かうって意味」


「良いですよ〜!なんか前向きですし、言葉の響きも良いですし」


 よし、一時はどうなることかと思ったけど何とか決まったな。


「じゃあパーティ名「遥か彼方」で申請するのね?」


「はいお願いします」


「はい、じゃあ受理したわよ。よろしくね新パーティ「遥か彼方」のリーダー、トーイさん!」


「え、俺がリーダー?ソニアじゃなくて?」


「パーティ名決めたのもトーイですし、良いじゃないですかトーイがリーダーで」


 まあたった2人のパーティだし、リーダーって言っても形だけか……


「分かりました、便宜上俺がリーダーってことで……あと申請関係で何か有りますか?」


「いいえこれで終わりよお疲れさま、と言っても理解がかなり早くて助かったわ……規約関係なんか何度説明しても理解してくれない奴らばかりなのよ」


 あの規約が理解できないってどんだけ無法者なんだよ!常識的なものばかりだったぞ?


「ああいっけない忘れてたわ!これがギルド章よ、いろんな機能が付与されてるから失くさないようにね?ブロンズランクになったらカードも渡すから頑張りなさい。まあダンジョンに入るならカードはあまり意味ないけど……」


 もうこれでダンジョンに入れるんだよな?


「今からダンジョンに行こうと思うんですけど……」


「あらあらせっかちねぇ。ならクエストの受注をしていきなさいな。第1層ならゴブリン、オークの討伐依頼ね、それぞれ3日で10匹討伐して報酬は銀貨5枚ずつよ。失敗してもペナルティ無し」


「それはありがたい!受けていきます!」


 マーガレットさんがパパッと処理してくれる。


「ギルド章を持って行きなさい、ギルド章が討伐モンスターを記録してくれるわ」


「はあ?なんですかその機能凄くないですか!?」


 なにその便利機能、解体して討伐証明部位を取るのかと思った。


「あら、今までで1番食いついたわね。でも構造は教えてあげられないわよ?もし複製したらトーイちゃんが討伐対象になるからやっちゃダメよ?」


 おっかないなぁ。まあ出来ないけど……


「今日はありがとうございました。ダンジョンに行ってきます!」


「あらあら元気ね!今度ソニアとウチのダーリン交えて食事しましょう?」


「はい喜んで」


「ホントにいい子ね……ソニア頑張んなさい!」


「メグちゃん任せて下さい!」









◇◆◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


作中に出てきた「深淵」は拙作「私の優しい英雄」に設定だけが出てきたパーティです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330666707506831


もしよろしければご一読ください。

 

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