第15話 「魔法剣士」基礎コース 1日目


 「魔法剣士」のマスターがいるのは職業訓練所内の一角だそうでそちらへ向かう。簡単に言うとさっきの適性検査所から50メートル北に行ったところだって。分からないか……


「おじゃましまーす」


「やぁいらっしゃい、連絡は来てるよ。初期職が「魔法剣士」でしかも特殊ジョブ持ちの有望株」


 アースガルドには個人情報保護の概念はないみたいだな……情報が筒抜けですやん!


 部屋の中央に立っているのは、身長180センチメートルほどの金髪を肩まで垂らした美丈夫で、尖った耳が特徴的である。

 尖った耳!これはもしかしてワイバーンさん、ゴブリンくんに続くファンタジー第3の有名人のエルフさんではないか?

 尖った耳から目が離せない事に気付いたのかマスターが苦笑しながら、


「エルフに会うのは初めてかい?そんなに見つめられると照れてしまうな」


 かっー!キザなセリフも似合いますな!と内心で喝采をあげていると、見かねたのかソニアが、


「すみません、彼は落人なのでこちらの礼儀に疎いんです。ご無礼を許してあげていただけませんか?」


 あっ、もしかしたらエルフさんの耳を凝視するのは無礼なのか?それはいけない謝らないと!


「知らなかった事とはいえすみません!」


「いいよ、ちゃんと謝罪の気持ちが感じられるから気にしていないよ。ただ、他のエルフと会うときは気を付け給えよ?」


 心が広いエルフさんで良かった……


「それで、私のところに来たということは私に師事するためと思って良いのかな?」


 そこまで大仰に考えていなかった、ソニアに目をやると頷き返されたので、


「はい、ぶっちゃけ戦闘などは素人なので「魔法剣士」の戦い方の基礎と、魔法について教えてもらえればと思って来ました」


「ハッハッハ、正直だね。良いだろう、とりあえず3日で魔法剣士の基礎を叩き込んであげるよ。基礎コース受講は金貨3枚、分割なら金貨4枚と銀貨5枚だけど大丈夫かい?」


 はい?金取るの?ってまあ習いごとするなら月謝払うわな。どうしよう金なんて持ってないよ?


「はい、では金貨3枚お渡ししますね?」


 ソニアが払ってくれた。なんで?


「貸すだけですよ?ダンジョンに入ったら返してくださいね?」


「ありがとう!すぐ返すから!」




 受講しないソニアは一旦教会に戻ることになり、俺だけがマスターからの講義を受ける。

 とはいえ流派が有るわけではないので型などはなく、実戦に即した攻撃の仕方や盾を使わない防御の基礎などを模擬戦を行いながら文字通り叩き込まれた。痛いの嫌なのに……


「転職組の者よりクセが無いから教え甲斐があるな」


「転職の人も受講するんですか?」


「転職組の受講は必須になってる。前職のクセを抜かなきゃいけないから、特殊な結界内で時間を引き伸ばして行うんだ」


「ほほう、興味深いですね?」


「あまり良いものじゃないよ?結界のせいで転職後は軒並み能力が下がってしまうからね。その点君みたいに初期職が魔法剣士なら能力据え置きだから同じレベル1でも基礎能力が全く違う」


「なるほど、ですけど経験も全く違いますから、一概に俺のが強いとは言えないですよね?」


「ほう、それが分かっているなら私から忠告することは無いかな?ホントに優秀だね」


 さすが金貨3枚の講義、おべっかで乗せるのも上手いな……




 夕方まで講義を受けて、次回は明日ということになる。教会に戻ると神父さまが出迎えてくれた。


「やぁおかえり。かなり鍛えられたようですね」


「ただいま帰りました……痛いの嫌なんですけどね」


「ははは、君は正直ですね。結構傷だらけのようだし私が回復魔法をかけてあげましょう」


 おっとまた魔法が見れる。……けど念の為予防線は張っておこうかな。


「ご好意に感謝します。ありがとうございます」


「警戒させてしまったかな?もちろん無償ですよ」


 ばれてーら!


「すみません、お気を悪くしませんでしたか?」


「いいえ?それくらいの警戒心は持っておいたほうがいいですよ。この世界だって優しいばかりではないですからね?」


「ありがとうございます、お願いします」


「では、───封傷」


 あれ?はやっ。


「ソニアより詠唱が早い?」


「そうです、同じ魔法でも使い手の練度によってはここまで差が出ます。ソニアから聞きましたよ、あなたも魔法を覚えます……修行を常に怠らないように」


「はい、ありがとうございます」


「では夕食にしましょう」


 神父さまはにっこり笑って奥に行かれた。ソニアのおかげかいい人と出会えてるな俺……








◇◆◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。



人との出会いって大事ですよね。

しかしいつになったらダンジョンに入るのでしょう?



次回も読んでいただけると嬉しいです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る