第12話 【舞視点】 兄義妹(きょうだい)


 お兄ちゃんが今日帰ってこなかった……今までこんな事1回もなかったのに。

 昨日はあまりにも帰宅が遅いので帰ってきたらお説教とお仕置きをしなきゃと思っていたけど、朝まで帰ってこないと何か事故にでもあってしまったのかと心配になってしまいました。あの日事故にあった両親のときのように……




 私達はたったふたりっきりの兄妹……あの事故で両親が他界した今では、たったふたりっきりの家族になってしまいました。

 親戚のいない私達が施設に入って離れ離れにならないように、この家でまた生活出来るようにと手配してくれた林のおじさまには、複雑な思いはありますが感謝しています。子供のいないおじさま夫婦の養子にという話は断固としてお断りしましたが……

 でも時折あの事故が無かったらと、考えても仕方のないことを考えてしまう……

 

 事故があったあの日はお兄ちゃんに真実を打ち明ける予定だった。たったふたりっきりの家族になってしまった今では、打ち明ける事は叶わなくなってしまいましたが……

 実はあの日お父さんがお兄ちゃんに、私が本当の妹ではない事を打ち明けることになっていました。お兄ちゃんだけが知らなかった真実を、私に打ち明けたのと同じように本当の両親の命日だというその日に。



 私は昔からお兄ちゃんが好きでした。そのことでずいぶん悩み結ばれない恋に絶望してましたが、中学にあがって迎えたあの日、両親から真実を打ち明けられてからは希望に満ちたものとなりました。

 それからはお兄ちゃんの胃袋を掴むため率先して家事を手伝うようになり、また並行してお兄ちゃん好みの女の子になるため美容にも気を使うようになりました。

 その甲斐あってお兄ちゃんの胃袋を掴むことに成功し、お母さんからは「楽できていいわぁ」と喜ばれました。後半はどうでもいいですが。

 また容姿もお兄ちゃん好みの可愛い感じにはなれませんでしたが、周りの方の反応から見て十分に整った容姿に育ったようです。

 お父さんは「舞は嫁には出さん!」と息巻いていましたが、私も元々嫁に行くつもりはありません。嫁には入りますけど!もう一度言っておきましょう、嫁には入りますけど!!

 あとは両親を丸め込……コホン説得しお兄ちゃんに真実を打ち明け、直接的なアプローチを開始するだけだったのですが……


 今真実を打ち明けてしまうとお兄ちゃんは天涯孤独になってしまう。せめて私が大学に入るくらいまでは妹としてお兄ちゃんを支えよう。

 大学生になったら真実を打ち明けて、恋人として、そしてゆくゆくはお嫁さんとしてお兄ちゃんを支える。そんな夢を見ていたのに……


「お兄ちゃん……何処に行ってしまったの?私が嫌になった?別の女でも出来た?」

 

 日が昇ってからはお兄ちゃんが行きそうなところは全て探して全部空振った……警察に届けるにはまだ早すぎる。早くも私に出来ることが無くなってしまって途方に暮れてしまった。

 何度目だろう……スマホを取り出して既読が付かないメッセージをながめ……る?


「既読が付いた!?」 


 お兄ちゃん今スマホ見てる?


『お兄ちゃん!今メッセージ見てるでしょ!返事して!!』


『舞!お前今地球に居るよな?アースガルドに来てないよな?』


 お兄ちゃんなに言ってるの?


『変な事言ってごまかさないで!今何処にいるの?早く帰ってきて!』


『信じられないかもしれないけど、俺さ今異世界にいるんだ、帰る方法は一刻も早く探すから待っててくれ』


 異世界?お兄ちゃん……ついにアタマが残念に……でもこういうときは刺激しないほうがいいよね?


『そうなんだ、大変だね』


『あっ変な誤解してるだろ!ちょっと待ってろよ!』


 どうしよう……上手く話を誘導して今の居場所を聞き出して迎えに行く?事と次第では林のおじさまに助けを求めましょう。病院の手配もいるかもだし……


 ポンッ……画像が貼り付けられる。ふたつの月を背景にお兄ちゃんがピースしてる自撮り写真。お部屋の窓はなんか木製で古い感じだけど、特段何の変哲もない写真だよね?


『どうだ!これで異世界に居るってわかるだろ?』


『そうだね、ふたつの月が綺麗だね』


 ふたつの月?ん?んんー?月が2つある?はい?


『お兄ちゃん!月が2つあるよ!』


『おー良いリアクションだ我が妹よ!言っておくが加工とかではないぞ?』


 それは分かる、お兄ちゃんにそんな技術無いし。ということは……ホントに異世界なんだ……


『どうするの!帰ってこれないの?』


『なんか俺みたいなやつを落人って言うらしいんだけど、故郷に帰った人も居るらしいからそこから当たってみる。てかとりあえず通話にしないか?』


 その後通話を試みるけどそれぞれコールもしない、お兄ちゃん側からはネットにも繋がらない、メッセージにリンク貼っても跳べない、他の人にはメッセージのやりとりも出来ないみたい……


『どうやら使えるのはこのメッセージだけで、しかも何故か舞のみにしか繋がらない……ご都合主義だな……』


『なに言ってるの、私と繋がるだけでもめっけ物だよ!それで今街にいるんだよね?』


『そうだ、ソニアの伝手で教会の部屋を使わせてもらってるけどいつ迄居られるか……』


 うん?ソニア?女?


『お兄ちゃん、ソニアさんって誰?』

「お兄ちゃん、ソニアさんって誰?」






◇◆◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。



舞ちゃん少しヤンでる匂いがしますね……

あと、この作品はファンタジーです!大事なことなのでもう一度言います、この作品はファンタジーです!



次回も読んでいただけると嬉しいです。

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