第10話 羊

「ラムとマトンの違いは判るかい?」

「子供か大人か。」

「ボク達はラムだね。」

「違うな。マトンになるまで待ってるんだ。」

「フフッ、女狐め。」

「狼からは守ってくれるだろうよ。……羊なんて出て来たか?」

「兎だったかな? まあ、大した違いじゃあない。非捕食者の草食動物なんてどれも似たような物さ。」


「どうした?」

「良くある事さ。精神的に不安定になってる。恐らくね。」

「……そうか。確かに、良くある事だ。」

「こういう時は励ましてくれる物じゃあないかい?」

「どうすれば良いのか分からないんだ。」

「君を励ました時の事を忘れたのかい?」

「お前とオレは違う。お前はどうして欲しい?」

「傍に居てよ。」

「それはいつも通りだろ。」

「……フッ、確かにそうだね。」


「最近、不安なんだ。」

「不安?」

「実は君が人間じゃなかったらって、そんな考えが頭をよぎる。」

「羊かもしれないな。」

「その羊は、電気で動いてたりはしない?」

「そうかもしれない。ただ、イチとゼロだけで考えてる訳じゃあない。」

「それも作られた物だったら?」

「主人公気取りか? 人間でさえ人間に作られてるだろうが。」

「人も機械も同じって事?」

「大した違いは無いって事だ。アイデンティティが在るならな。」


「二足歩行の羊は珍しいだろ?」

「そんな生き物は居ないよ。」

「ファンタジーは好きだったよな。」

「今は良いや。夢の中で夢を見てるみたいだ。いつもの君が良い。」

「……ふん。アニマルセラピーよりもオレを取るのか。お前は本当に仕方の無い奴だ。」

「ハナセラピーだね。」

「香りもフローラルにしてやろうか。」

「このままが良い。」

「……そうか。」


「オレ達はアンドロイドじゃあない。」

「解ってるよ。頭ではね。」

「でも。たまに、オレ達二人共がAIだったらと思う事がある。」

「虚しいだけだよ。片方だけでも一人相撲になってしまうのに。」

「悪い事ばかりでもない。この世界が終わるまで、独りぼっちとは無縁になる。」

「……フフッ。それは魅力的だね。」

「だろ?」

「それでも、本当の君が良いな。」

「同意見だ。本当のお前が良いに決まってる。」

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