第8話 髪

「有意義ってのは何だと思う?」

「その言葉自体がナンセンスだね。」

「ああ。お前のやっている事も無意義だよ。」

「そんな事は無いさ。ボクはとても有意義な時間を過ごしているとも。」

「オレの髪の毛を弄って、それが何になるって言うんだ。」

「外見において、髪型というのは大事な要素だよ。」

「見た目なんていくらでも変えられるだろ。それこそナンセンスだ。」

「ボクが禿げてたら嫌でしょ?」

「……それは確かに嫌だ。」


「いつもみたいにやれば良いじゃあないか。」

「おかしな事を言うね。いつも勝手に着せ替えるなって言うのに。」

「なんで今回に限ってアナログ的なんだ。」

「手ずからするのもたまには良い物だよ。」

「理解出来ないな。」

「それは勿体無い。君の理解を進めるために着替えもアナログ的にしようかな。」

「やめろ。本当にやめろ。」


「これは?」

「編み込みカチューシャ。似合ってるよ。」

「……そうか。」

「そういう君を見てると、ボクは有意義に思うよ。」

「何が言いたい。」

「怒るから言わなーい。」

「何なんだ、全く。」

「フフッ。ねえ、君はどう思う?」

「ナンセンスだ。でも、悪くない。」


「お揃いだね。」

「お前……。手ずからやるんじゃあなかったのか?」

「自分で髪を弄るのなんてつまらないよ。」

「要するにオレを弄んだのか。」

「ちょっと、変な事言わないでよ!」

「やる事やっといてしらばっくれるたぁ、ええ度胸やないかい。え? つべこべ言わんと落とし前付けんかい!」

「ジャパニーズヤクザ!? ナンデ!?」

「Vシネ。最近ハマってるんだ。あのジャンルは中々面白い。」

「に、似合わない……。」


「なんで髪を弄る気になったんだ?」

「新しい事を知るのは楽しいでしょ?」

「つまり試してみたかっただけか。」

「ああ、いや。ボクの知らない、君の新たな一面を見たくてね。」

「何だよ、それ。」

「好きな物事を追い求めてしまうのは人間のさがだよ。」

「うっさい。黙れ。」

「フフッ。だからボクにとっては有意義な時間だったのさ。あ痛っ!」

「黙れって言ってるだろ!」

「やっぱり怒った!」

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