31・あるスライムと勉強の成果



 ルーが学校の三年生になる頃には、ララちゃんは基本的なマナーはだいぶ出来るようになったそうだ。国内の貴族の関係性辺りも頭に入ったし、これなら問題ないと言われるまでになった。

 侯爵家の令嬢であるルーが力添えをしているということで他の貴族の子女も協力的で、友達も増えた。自分一人の学習ってどうも頭に入りにくいけど、誰かと一緒にやると少し違ったりするよね。やる気も出るし。

 今日も練習がてら、庭園でルーとララちゃんはお茶会だ。紅茶を飲む仕草も、とても丁寧で美しくなっている。

「うん、良いわ。頑張ったわね、ララ」

「ルー様のおかげです。それにみなさんも、すごく優しくしてくださって」

「それはあなたが頑張っている姿を見ていたからだわ。頑張らない人に、協力はしないもの」

「そんな、……もったいないお言葉です」

 ララちゃんは平民で編入で本当に大変だったと思う。けれど無事にルーと一緒に進級出来るのはすごいことだ。

 元々強いと言われていた光属性魔法も勉強と練習を重ねることで、随分安定して使えるようになったそうだ。

 最初の頃は魔力を込めすぎてすぐに魔力切れになってしまったり、うまく傷を治すイメージが掴めなかったりと苦労したようだけれど。

 ただ攻撃系の魔法はルーが教えたからか、習得が早かったらしい。可愛い小動物系美少女なのに真っ先に得意になったのが光で焼き尽くす系の魔法なんだよ。どうしてこうなったんだ。いや、どうしてもこうしてもないか、ルーがいたからか。

 ルーは未だにスープを上手に温める魔法は扱えていない。繊細な魔力操作は得意ではないからだ。一度スープを温めてもらったことがあったけれど、灼熱かな?というすごい、すごい温度だった。なんかスープの量減ってたし。

 火属性魔法をいっぱい練習しているうち、原理がちょっと似ている光で焼き尽くす魔法も覚えたらしい。

 本当に、ルーはね……黙っていれば美少女なんだけれどね。まあそんなところがまた可愛いのだけれど。


「卒業する頃にはどこにでも就職出来るようになっているかもしれないわね、ララは。四年生になったら、王城勤めからもたぶん勧誘が来るわよ」

「ええっわたし、平民ですよ!?」

「貴族学校を卒業出来るくらいなら、平民でも関係ないわ」

「そうなんですか?」

「ええ。就職はね。まあ、流石に結婚、となれば子爵以上は色々難しいかもしれないけれど」

「貴族の方との結婚とか考えたことないです」

 ぶんぶんと焦ったようにララちゃんが頭を振る。そんな様子を見てルーは楽しそうに笑った。

「でもね、何となくララならありそうなのよね。顔も可愛いし、性格も良いし」

 それには同意。ララちゃんはスライムであるわたしにも優しいし。

「いざって時はどこかの家に養子に入ってとかの手続きも出来るし。何かあったら相談してね」

「流石にないですよー」

 ララちゃんは心の底からそんなことは有り得ないと思っているのだろう。そんな感じに軽く笑っている。





 学校で四年生だったリィンは、今年で無事に卒業した。なんと四年間ずっと成績トップだったらしい。まじか。

 屋敷ではリィンの卒業後にお祝いがあり、すごく豪華な夕食だった。スープも具材が豪華。すごい。

 そんなほくほくの夕食を楽しんだ後、わたしはリィンに呼ばれてリィンの部屋に来ていた。

 成績トップ、すごい、すごい!と伝えたくて、ぴょんこぴょんこと跳ね回ってみせたら、リィンは珍しく機敏なわたしの姿にものすごく笑っている。

「はー、あんな機敏なノラ、珍しい。褒めてくれてたんだよね?」

 そうそう、わかっているじゃないか。

「ありがとう。でも僕が成績トップを維持したのって、結構不純な動機なんだよね」

 そうなの?でもそうだとしても、すごいことだと思うけれど。一体どんな動機なんだろう。

「ノラにしか話さないから、他のみんなにはまだ内緒だよ?」

 リィンはしぃ、と唇に人差し指をあてて、内緒話だと言う。悪戯っ子みたいな表情をしている。

「表向きはね、卒業したら間もなく婚約者と婚姻になるから、婚姻したらしばらく二人で旅行に行きたいって言ったんだ。夫婦の仲を良くするのと、見聞を広める為にもって。ずっと成績トップだったら、希望の場所に行っていいと言われてる。国外でもね」

 新婚旅行的な感じかな。

 リィンとリィンの婚約者の伯爵令嬢は同い年で、彼女も一緒に卒業している。卒業後に結婚式の準備をして、半年後には籍を入れると聞いてはいた。嫡男だし、跡継ぎのこともあるし、早い方が良いだろうという話で。

 ただ旅行先が国外となると色々問題のあるところもあるから、わざわざ条件をつけられたのだろう。まさか達成されるとは、リィンの両親も思っていなかっただろうな。

「もっともらしいことを言ってるけど、本当は違うんだ」

 なんだか、ずっと優等生みたいなリィンには珍しい感じだ。

「婚約者が、海の果てと地の果てを見てみたい、って言ったんだよ。どんな場所なんだろうって」

 海の果てと地の果て?うーん。それはどうなんだろう、水平線とか地平線の話ではたぶん、ないんだよね。話に聞くだけでもすごく遠そうな印象だ。

 あー、なるほど。

「そこに行こうと思って」

 にっこり、とリィンは笑う。めちゃくちゃ悪ーい笑顔である。

 両親、好きな場所でオッケー出しちゃってるけどこれ大丈夫?ものすごい遠そうだよ、希望の場所!確信犯!!

「侯爵を継いでしまえばそんな自由、なくなっちゃうからね。責任もあるし。でも今だけはいいかなって。見たいって言っていたし、……笑ってほしいんだ」

 そして突然の惚気。リィン、婚約者にベタ惚れではないですか。

 でも、うん。わたしは良いと思うよ。


 リィンは小さな頃からあまり我儘を言わない子供だったと思う。

 わたしが出会った時、既にリィンは『お兄ちゃん』だった。子供らしい心情を吐き出したこともあったけれど、基本的にリィンは優等生で、どちらかといえば活発なルーに振り回されていることが多かった。

 両親の愛情に差があったとは少なくともわたしは思っていないし、性格もあるだろう。すごく我慢をしていたとか、そんな風にも思っていない。それでもわたしは嬉しい。こんな大きな計画を、こんなにも楽しそうにわたしに話していることが。

 伯爵令嬢との婚約も元々は政略的なもので、そこから段々と親しくなっていったのだとも聞いている。

 けれど、そうか。こんな風にこっそり悪巧みのように計画を練るほど、仲が良いのか。


「内緒だよ、ノラ」

 いいね。そんな内緒話なら大歓迎だ。

 希望の旅行地を聞いた時の、みんなの反応が楽しみだ。それから、婚約者さんが嫁いでくるのもね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る