29・あるスライムと乙女ゲーム?
「そういえば、少し変わった女の子が編入してきたのよ」
「少し変わった女の子?」
リィンとルーとわたしで屋敷でまったりしていたところ、ルーがそんな話をした。
リィンとルーは現在、学校に通っている。
なんでも、貴族は十四歳から四年間、基本的に学校に通うらしい。そこでは勉強と社交の練習を行う。小さな社交界、とも言われているそうだ。うん、すごく面倒くさそうだよね。
学生の間は身分関係なく交流を……とか言いつつ絶対実情そうじゃないやつ。マナー、大事だよねえ。
リィンは今十七歳で四年生、ルーは十五歳で二年生。学年は学力やマナー等々に問題なければ年に一度上がるのだけれど、今は半端な時期だ。ルーも入学ではなく、編入と言っていたし。
「平民の女の子みたいなんだけど、急に光属性魔法が強く発現したんだって聞いたわ」
「ああ、平民でも将来が有望な子だと貴族学校に来ることはあるみたいだけど、それで?」
「そうみたい。ご家族の大怪我を、一瞬で治してみせたのだとか」
「それは珍しいね」
二人の会話を聞いていてわたしは思った。
これは、これはもしや……乙女ゲームというやつ、では?
なんかこうどこかで聞いたような話のオンパレード。貴族の学校にやってきた珍しい平民、光属性魔法、女の子……わあ。その子、ピンク色の髪の毛してたりするのかな?名前がマリアとかララとかステラとかそういう可愛い系で、小動物みたいな見た目の。
光属性魔法を扱える人は多くはない。大体は練習して技術を上げていくのだから、いきなり使って大怪我を治すほど、というのなら、余程の才能があるのだろう。
「年齢は私と同じ十五歳みたいなのだけれど、一年に編入するか二年に編入するか学校側も迷ったみたい。でも彼女、文字の読み書きとかは問題なかったみたいで、年齢に合わせて二年に入ることになったって聞いたわ」
「でもそれで勉強追いつけるのか?」
「元々学校って家の用事や勉強も加味されてお休みの日ってそこそこあるじゃない。その日に補習っていう形で勉強をするって聞いたわ」
「それは……大変だな」
「そうよね。心配よね」
平民の学校と貴族の学校では、習うことは違うらしい。まあ平民として生活していて貴族で使うようなどの領の特産は何で流通経路はどうでマナーはこうでとか、使わないよね。
ただそういった貴族的な勉強の他に魔法の専門的な知識を教えてもらったり、経営について学んだりもあるみたいだから、平民の学校より良い勉強が出来ることは確かなのだろう。
裕福な商家や騎士の家系の人とか、素行や成績が良ければ平民でも入学し卒業することはこれまでもあったそうだ。編入、というのは珍しいそうだけれど。
ともあれそんな専門的に学べる貴族の学校を卒業すると当たり前だが箔がつく。頭もマナーも問題ないよって公的に認められたみたいなものだからね。だから平民でもここを卒業すると、良い就職先に恵まれるらしい。
「クラスが違うからまだ話したことはないのだけど、明日話し掛けてみようかしら」
ルー、相変わらず積極的だな。大丈夫かな?
もしこれが乙女ゲーム的なアレだったら、何となく立ち位置的にルーがいわゆる悪役令嬢ポジションっぽいじゃないか。ルーが?悪役令嬢?……似ても似つかない感じの言葉にわたし笑ってしまいそうだよ。
メインヒーローは誰になるんだろう。というか元々ルーはどちらかといえば第一王子のウィルくんの婚約者の方がって、最初の顔合わせの時には望まれていたみたいなんだよね。ウィルくんの初恋ってルーだから。まあ拗らせてて上手くいかなかったわけだけれど。
あのまま順当にウィルくんと婚約を結んでいたらウィルくんは反省もなく俺様なままだったかもしれないし、ルーも望まない婚約にやさぐれる可能性はなくはない。
そんなウィルくんも学校は既に卒業しているし隣国の王女様の婚約者がいる。
第二王子のハルくんは婚約者で、学校には在籍中。こっちがメインヒーローなのかな。設定とズレたのかな。まあ本当に乙女ゲーム的なアレなのかはわからないけれど。
ルーのお兄様である侯爵家嫡男のリィンも在籍中だし、学校のどっかには騎士団長の息子とかいるんじゃない?あるいは女たらし的ポジションの貴族の誰か。
うわあ、学校楽しそう。
ああでも通いたくはないけれど。ヒロインちゃん(仮)の様子を見てみたい。
そんな話をした翌日のことだった。
「ただいまノラちゃん、新しいお友達を連れてきたわ!」
「は、はじめまして、ララと言います」
ニッコニコのルーが屋敷に連れてきたのは、綺麗なピンク色の髪をした小動物的美少女、ララちゃん。
わたしはルーの行動力にいつもびっくりさせられるよ……。
ぴょん、と跳ねてご挨拶をする。
「この子がスライムのノラちゃんよ。お友達なの」
「わあ、この子が有名なノラさん……」
有名って何だ。あ、あれかな、侯爵家のお嬢様が可愛がっているっていう話。
「ゼリーみたいでおいしそうですね」
「そうよね!」
ヒロインちゃん(仮)はデザートを見るような目でわたしを見ている。どうやらちょっと変わった子らしい。そしてルーもそれを受け入れてニコニコしている。この二人、何だかすごく相性が良さそうだな……。
少なくとも転生した記憶があるヒロインで、逆ハー狙いです悪役令嬢破滅しろみたいなタイプじゃなくて良かった。
「料理長がノラちゃんゼリーを作ってくれているから、後で一緒に食べましょう」
「あの有名なゼリーをですか!?えっあの、良いのでしょうか。わたし、平民ですし」
「良いのよ。もうお友達じゃない」
「ルーリルア侯爵令嬢様……」
「ルーで良いわよ。ね、ララ」
「ルー様!ありがとうございます!」
ララちゃん、めちゃくちゃ良い笑顔。わずか一日でものすごく仲良くなっている。
そしてわたしのゼリーも有名なの?初耳なんですけど。
何のゼリーかは想像がつくけれどさ。以前作っていたわたしそっくりの分身ゼリーだよね。料理長さん、まだ作り続けていたのか。
そんなわけでゼリーやらお菓子やらを楽しみながらのお茶会に。
とりあえずララちゃんはなんか大丈夫そうなヒロインっぽい子、といった感じだった。
学校に来る前は平民として暮らしていたのだから貴族的なマナーがわからないのは当たり前だけれど、ちゃんと分別は弁えている子のようだ。貴族には貴族のマナーがあるものだからと勉強しているようだし、ルーに指摘された部分は謝罪とお礼を言って直すように努める。
わたし平民だからわかんなーい、身分なんてくだらないですぅー、えーんいじめられてるぅー、みたいな子じゃなくて本当に良かった。
「ねえ、ご家族の方の怪我を治す前って、魔法を使ったことはなかったの?」
ルーの質問にもびくびくしたりすることはなく、恐縮はしているものの笑顔で受け答えをしている。
「はい。わたしの家では魔法を使える人ってそんなにいなかったので……幼い頃訓練場に行った時にも大した魔力はなかったようでしたので、それきりでした」
「成長して、魔力も強くなったのかしら?」
「そうみたいです。練習なしでここまで変化があるのは珍しいらしいですけど」
「それも光属性だものね。すごいわ!」
「いえ、わたし、何もしていませんし……これまでずっと努力されてきた人たちの方がずっと、すごいと思います。わたしもこれから、誰かを助けていきたいです」
大してないと思っていた魔力がいつの間にか成長していたら、それはびっくりするだろうね。ご家族の人は大怪我だって言っていたし、ララちゃんもその時は必死だったのだろう。
自分にすごい力があるのだとわかっても、ララちゃんに驕った様子はない。このまま学んでいったのなら、揉めることもなく良好なまま卒業までいきそうだなあ。
「私もララのお手伝いをするわ。勉強とかでわからないことがあったら、言ってね。他に困ったことがある時も」
「はい!ありがとうございます!」
これからララちゃんは大変なことも多いだろうけれど、大丈夫そうだ。そしてこれなら乙女ゲーム案件は未発生、ということだろう。やったね。
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