27・あるスライムとふにふにともちもち
ふにふにである。
何がか、といえば、もちもちである。
「アーっ」
ここでわたしの体にぺちんと衝撃が。赤子の無垢な平手打ちだ。やばい、ちっとも痛くない。一体何があってこんなことに?というと、説明すると長くはならない。
わたし(ノラ)不在の間、ルーは寂しかったのを何で紛らわせていたのか?という話題に。
↓
ハルくんの猫ちゃん(キティ)と王城で遊んでいたりなどしたと確認。
↓
最近はメイドさん(リエッタ)の赤ちゃんにも構っていることが発覚。
↓
メイドさんは本日来ていると判明。
↓
ならば赤ちゃんに会いに行こうではないか!←イマココ
という感じである。
ちなみに話をしているのはリィンとルーだ。
久しぶりに見たメイドさんはもうすっかり母の顔。幼い我が子を抱っこする姿はもはや聖母かな?と思わんばかりの可憐さだった。
「あの、大丈夫でしょうか?ノラにこんな……」
とはいえ赤ちゃんとわたしの触れ合いがはじまるとメイドさんの顔色が変わった。赤ちゃんは恐らくはじめて見る未知の生物たるスライムにギャン泣きすることはなく、それは安心したのだけれど、興味津々で先ほどから叩いたり踏んだりの繰り返しなのだ。
いや、わたしも別にこんなことで怒ったり不快に思ったりはしないよ。赤ちゃんってこんな感じじゃないかな。
むしろ手足はふにふにもちもちして柔らかいし、何でかちょっと甘いミルクみたいな良い匂いがする。癒し。
「大丈夫よ、リエッタ。ノラちゃんも喜んでるんじゃないかしら」
「そ、そうでしょうか」
そうそう。げしげしと蹴りに変わったけれど、本当ちっとも痛くない。ふにふに。
メイドさんは現在赤ちゃんを出産して絶賛育児中なので、まとまったお休みを貰っているらしい。
今日はわたしが屋敷に帰還した、ということを同僚の人たちに教えてもらって、わたしに会いに来てくれたのだ。わたしに会う前に他の使用人さんたちに挨拶に行っていたそうだ。
長期休み中もメイドさんは屋敷に時々訪れていた。何でも赤ちゃんをはじめて近くで見たルーが感動して、可愛がりたがったしお世話もしたがったということで。メイドさんさえ良ければ馬車を出すからたまにでいいので顔を見せてくれないか、というお願いに、優しいメイドさんは頷いてくれてこうしてちょこちょこ顔を見せてくれているのだ。勿論侯爵家なので、その分の手当てはしっかり出している。まさに理想的な職場環境。
今日はそれとは別にわざわざわたしに会いに来てくれたらしい。メイドさんのおうちはわりと近いみたいだからね。
いつかはルーもお母さんになるのかもしれない。その時は王城住まいだし、本人が子育てにどれだけ関われるのかはわたしにはわからないけれど。接し方とか色々、勉強しておくのは良いことだよね。
「ノラは子供が好きなのかな?ルーもはじめて会った時は小さかったし」
わたしと赤ちゃんの様子を見ながらリィンが呟く。
いやまあそれは嫌いではないけれど。ただ全然のわたしも育児の経験はないはずだから、何とも言えない。少なくともこうして接する、他人の子供は可愛いと思う。責任とかない立場でただ可愛がれちゃうからね。親、となればたくさんの責任がついてくる。当たり前のことだけれど。
それはそれとして、赤ちゃんは可愛い。
わたしが出会った時はリィンもルーも赤ちゃんではなかった。拙くても言葉は話せたし、歩けたし。けれどこの子はハイハイは出来るようだけれどまだ立てないようだ。これから大きくなるんだよ。
赤ちゃんを見守るメイドさんはすっかりお母さんの顔で、まだ若いのにすごくしっかりして見えた。妹がいると言っていたし、お姉さんだったからか元々しっかりしている感じはあったけれど、今は更にそこに強さが加わったというか、基盤がしっかりした感じ。
ちなみにメイドさんは男爵家のご令嬢らしくて、旦那さんとは恋愛結婚だって。貴族ではないけれど騎士の方で、メイドさんにベタ惚れしているとのこと。
メイドさんが結婚後も働きたい、と言ったのを快く受け入れてくれた旦那さんだって。だから育児が落ち着いたらまた屋敷で働くようだ。
実家の男爵家は元々妹さんの方が継ぎたいって言っていたし、遠縁の男の子がどうやら妹さんと相思相愛らしいので、婿入り予定。うんうん、順風満帆そうで何より。
まあ元々男爵家が裕福ではなかったからメイドさんは働きに出ていたそうだけど、暮らしていける分のお金があればハッピーだよね。騎士も中々の収入があるだろうから、以前よりは良い水準の生活をしていると思う。
「ノラちゃんは本当に、怒らないわね……」
と、感心したようなルーのご様子。
いつの間にかわたしの体は赤ちゃんにニギニギされていた。赤子の容赦なき掴み。わたし、掴まれている部分めちゃくちゃ変形している、というか千切れそう。
「ほら、そろそろ離してあげて?」
「やあー!」
ママの言葉に抵抗しながらわたしをぎゅむぎゅむ握り続ける。そう、今のわたしはきっと赤ちゃんのおもちゃに過ぎないスライムなのだ……。
「あっ千切れたわ!」
「えっ大丈夫?ノラ」
「ああああ何てことを……」
「でもリエッタ、ノラちゃんってば平然としているわよ」
「痛くないのでしょうか……」
痛くないんだよね。
「アアアッ!」
赤ちゃん、千切ったわたしのカケラをぶん投げた。いやまあ赤ちゃんのパワーだからめちゃくちゃすぐ近くにべちゃって落ちたけど。
「ああっノラが!もったいない!」
わたしは無事です。ていうかリィン、もったいないって何だ。
落っこちてべっちゃりになったわたしのカケラをリィンは大事そうに掬い上げる。けれどそれは普通にただのスライムの残骸なので、しおしおと水のように溶けてそのうちなくなるだけだ。
「うーうー」
「赤ちゃん、今度はノラちゃんを舐めているわ」
「おいしいのでしょうか」
そうしてわたしは赤ちゃんの涎でべろべろになった。赤ちゃんの涎の量のすごさよ。
なお赤ちゃんはしばらくわたしを舐めて楽しんだ後、遊び疲れてぐっすり眠った。
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