23・あるスライムとある村人の一幕



 隣の家は流行病で両親二人が亡くなり、一人娘もまた流行病に罹ってしまった。

 うちも旦那と私、子供たちも流行病の症状が出ていたけれど比較的軽度で、すぐにみんな回復したけれど、隣の家のシユは長らく罹っていたせいか、回復は絶望的なのだと魔法使いの人に聞いた。

 もう動くのもしんどそうなシユを見て、うちに来て休んだらどうかと提案したけれど、両親と暮らした家にいたいのだと断られたから、日に何度か様子を見に行っている。


 気付いたらシユの家に、スライムが一匹棲みついていた。

 この村にスライムは多い。けれど家の中まで入ってくるのは珍しい。多くのスライムは外にいて、余った食事などをもらっていたから。

 そのスライムはいつもシユの側にいる。シユはスライムの為に食事を作るのだと、笑って話していた。

 仲の良い家族だった。シユは本当に良い子で、畑作業を手伝いながら勉強もしていた。少しでも良い職に就ければ両親を楽にさせてあげられるからと言っていた。シユの両親もまた、シユをとても大切にしていた。シユの作る変わっているけれどおいしい料理を、こんなものを作ってくれたんだと、いつも笑顔で。



 シユが亡くなった時も、寄り添うようにくっついて、スライムは側にいた。

 この短い間にすっかりシユに懐いたようだ。冷たくなって動かないシユの側から、離れようとしなかった。

「……わかるかい、シユは死んでしまったんだよ。……弔って、あげないとね……」

 スライムが言葉を理解するのかはわからなかった。けれど何となく声を掛ける。

 うちの子供たちと大して年の変わらない、女の子だった。流行病はどうしようもないこととはいえ、やりきれない。

 もっと食べやすいものを頻繁に持ってくれば良かっただろうか。もう一度魔法使いに治癒をお願いすれば良かっただろうか。無理にでもうちに連れて行って面倒を見れば良かっただろうか。たくさんの後悔が押し寄せる。

 けれどシユの死に顔は不思議と穏やかで、苦しんだ様子はどこにも残っていない。

 それでも悲しくて、やりきれなくて、涙が出てくる。


 その後人を呼んで、シユをみんなで弔った。

 シユの両親のお墓のある場所へ、シユも。家の中はほとんど片付いていたから、することは多くなかった。

 スライムはお墓を見て、家主のいなくなった家を見て。そしてすべてが終わったら、姿は見えなくなった。

 この村にはスライムがちらほらいるのに、シユの家にいたあのスライムはもうここにはいないのだと、何となく思う。


 後日、シユと両親のお墓には、花が添えてあった。

 村から少し歩いた先にある花畑のものだろう。シユが好きだと言っていた白い花と桃色の花。

 ……あの、スライムだろうか。いや、まさかね。


 流行病はどうにか終わり、村には平穏が戻ってくる。支援に来ていた魔法使いや薬師も帰り、村は再び畑を耕しはじめた。





 *





 シユを見送った。

 前世では火葬が一般的だったけれど、どうやらここでは土葬が一般的のようだ。焼かれて灰になった姿を見るのも煙を眺めて胸が締め付けられるのもつらいものだと思ったけれど、土葬は土葬で生前そのままの姿で埋められるというのもまたつらいなと思う。

 村の墓場に先に亡くなったシユの両親二人が入った棺が埋められていて、シユもそこに一緒に入った。それからまた棺を土の中へ埋めていく。

 貴族はどうだかわからないけれど平民の間では家族は同じ棺に入るのが普通のようだ。一人にひとつ棺を準備をして埋めるとなると場所もお金も必要だしね。それに死んでも一緒にいられるように、という願いも込められているようだ。

 時々シユの様子を見に来てくれていた村人のおばさんが、わたしに話し掛けて教えてくれた。わたしがずっとシユにくっついていたからか、何が思うことがあったのかもしれない。


 落ち込むわたしの側に、なぜか村にいたスライムたちが寄ってきた。

 ぺとりとくっついて、それだけ。お互い会話はない。意思疎通の術はどうやらスライム同士でもないようだ。けれどどうやら落ち込んでいる様子はわかるらしく、これはたぶん慰められている。


 それからわたしはシユとシユの両親のお墓には花を添えた。取りに行くのに数日掛かってしまったから、少し萎れてしまっているのは勘弁してほしい。スライムの移動速度の限界だった。

 やろうとすれば早く走れるだろうと思っていたけれど、どうやらスライムはやれば出来る子ではなかったようだ。頑張ってはみたけれど。

 いつかまた出会ったら、その時はちゃんと綺麗な花束をあげよう。そう思う。


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