13・あるスライムと魔法の見学



 前世にはあらゆる異世界漫画、小説、アニメがあったけれど、それぞれ魔法については設定が異なったりしていた。

 ちなみにこの世界の魔法の基礎は四つ、それ以外の特殊なものが三つある。


 基礎の四つは火、水、風、土。

 火はそのまま、火を生み出し操るもの。威力が高いので、だいたい攻撃に使われることが多い。あとは以前メイドさんが使ってくれた、スープを温めるのも火属性魔法だ。野営をする時にも火属性魔法を使えると肉を焼いたり焚き火をしたりと色々出来る、便利な魔法だ。

 水もそのまま、水を生み出して操るというもの。攻撃の威力はあまりないけれど、水辺などで戦闘する時は近くにある水も扱えるので、どかんとでかいのを浴びせることが出来る。とはいえ防御の方が優れている魔法のようだ。生み出した水は飲めるし、食器類も洗える。便利な魔法だ。

 風は勿論、風を操るものだ。速く鋭くして攻撃に使うことが出来る。風の壁を作って防御することも出来る。ちなみに風を操って空を飛ぶ、という魔法は、めちゃくちゃ難しいので出来る人間は少ないようだ。なお洗った髪や服を乾かしたりも出来る、便利な魔法だ。

 土はその通り、土を生み出し操るものだ。ただ土を生み出すのは土の特性を理解してからでないと出来ないみたいで結構難しい。そこにある土を操るのは簡単らしいけれど。土の壁を厚く作ると防御に優れているし、魔法で畑をごりごり耕すことも出来る、便利な魔法だ。


 特殊な三つは光、闇、無。

 光はその名の通り光を生み出す。つまり明かりだ。それから癒しの力も兼ね備えていて、主に怪我などの外傷の時には、光属性の魔法で癒すそうだ。外科的な感じ。ただ欠損などの大怪我になればなるほど、癒すのは難しい。

 闇はその名の通り闇、というか影を操る。影を通して足止めをしたり出来るそうだ。それと共に、こちらも光同様癒しの力も兼ね備えている。ただ闇の方は内科的な感じで、心を安らかにという使い方がほとんど。優れた闇属性魔法使いは心だけではなく、内科的な治療も出来るそうだ。闇、という名前だが悪いイメージはないみたいだ。

 無は基礎の四つと光、闇に当て嵌まらないものすべて。めちゃくちゃざっくりである。無属性魔法に関してはそもそも扱える人が少なく、習得するのも難しいそうだ。よくあるアイテムボックスのような便利な収納魔法は分類するなら無属性魔法だろうけれど、そもそも生まれていないんじゃないかな。ちなみに身体強化は無属性魔法らしい。


 と、種類的にはこんな感じ。

 それで人間によって使えない魔法があったりするのかといえば、特にそんなことはない。どこかで判定して、『あなたは火属性に適性がありますね』なんていうイベントも勿論ない。

 練習すれば少なくとも基礎の四つについては、人間によって差はあれど使えるようになるらしい。

 特殊な三つは元々難しい系統の魔法なので、めちゃくちゃいっぱい勉強と練習をしないと使えるようにはならないそうだ。

 特に治癒系は、しっかり中身を理解した上で繊細な技術と豊富な魔力が必要になるので、欠損や重大な病気を治すようなものを使える人はとても少ないらしい。


 ただ誰がどの程度の魔法を使えるか、というのは国が必ず把握しておきたい項目のため、自宅で勝手に練習は出来ない。

 平民は必ず指定の訓練場に行き、そこで練習をする。そこでは魔法を指導、監視する人たちがいて、その人たちのいるところでしか基本的に魔法の練習は出来ないし、使えないのだ。訓練場は各地に多くあるので、行きやすくはなっている。

 魔法が使えなくても生活が不便なわけではない。ただ、使えた方が仕事の幅が広がる。例えば土属性魔法を使えれば畑は簡単に耕せるし、といった感じに。仕事などで魔法を使う予定の時には前もって申請するのだ。

 以前のピクニックでメイドさんがスープを温めてくれたのも勿論申請済みでの行為だ。その時のように一度きりの場合は都度申請だけれど、自宅の畑仕事や勤め先の料理店で使用する場合とかは一年に一回の申請で良い場合もある。

 そういう申請関連も訓練場にいる人に聞けば教えてくれるのだ。

 これらを破ると危険視されて投獄である。魔力の痕跡は指紋のように人それぞれ違うので、悪いことをすると痕跡を辿られて見つかるのだ。

 ちなみに貴族は自宅で練習してオッケーらしい。勿論指導と監視付きなのは変わらないので、そういう人を雇い、自宅に呼び、練習をするということだ。一緒に使用人の練習もする、ということもあるらしい。

 あと防御系の魔法に関しては、使う前に申請は不要だ。身を守る、誰かを守ることに限るけれど。同じように誰かが大変な怪我をして急ぎの処置が必要な場合も、治癒系の魔法は申請なしでも使えるそうだ。当然、後からの報告は必要になるけれどね。





 というのが、この世界においての魔法らしい。スライムであるわたしは使えないのだけれど。

 何故わたしがこんなに詳しく知っているのかというと、これは全部リィンの受け売りだからである。

 リィンとお出掛けする時に魔法の話をしてくれることがあって、わたしがぷるぷると反応を示していたら、興味があるのかと察して詳しく話してくれたのだ。優しいね。


「ねーノラちゃんってば、ちゃんと見ていたの?」

 ぷくりと怒り顔のルーである。

 今日はルーの魔法の練習を見学していたのだけれど、どうやらリィンに教えてもらったことを思い返している間、ルーのことを全く意識していなかったことがバレたらしい。何故だろう、わたしに顔ないのに。

「ノラちゃんはいつも自由よね」

 どうやら許されたらしい。

 一旦魔法の練習は休憩にするようで、先生は席を外し、ルーはわたしの隣に座った。


 ルーはかなり、魔法を使えるようになったと思う。

 繊細な温度管理が必要な、当初の目的であるスープを温める為の火属性魔法の習得はまだだけれど、他は順調だった。というかルーは繊細な魔法の操作は苦手らしく、力技の攻撃魔法はガンガン習得していくわりに、細かな調整が必要なものはあまり上手く扱えないようだった。

 逆にリィンは繊細な魔法の方が得意で、攻撃魔法は苦手のようだ。性格も関係しているのだろうか。

「あーあ。私も早くスープを温められるくらい魔法が上手になって、ノラちゃんに喜ばれたいなあ」

 ふてくされモードのルーである。可愛らしい。


 ルーはいつの間にか自分のことを、ルーではなく私と呼ぶようになった。

 まだまだ子供っぽい部分はあれど、行動も以前より落ち着いている。手足もすらりと伸びてきて、幼女ではなく少女という感じだろう。

 出会った頃は三、四歳くらいだったけれど、今はもう八歳になる。子供の成長は早いなあ。

 リィンはルーのふたつ上だから、もう十歳。二桁突入である。

 そう考えるとわたし、四、五年くらいこの屋敷に居着いてるのか。

 そんなに長くいても、相変わらず従魔契約をするとかしたいとかいう話はない。出会った頃のまま言葉の通じないただのスライムだというのに、わたしの待遇は良いままだ。

 ほとんど毎日一緒に食事をするし、出掛けるし、部屋も整えられている。……まるで本当の家族のように。


 わたし、あんなに嫌だったのに。

 人間に生まれ変わるのは断固拒否、関わりたくない、一人でいたい。

 それがどうしてか、一つの場所にこんなに留まっている。一人でいる時間はある。けれど誰かといる時間も多いのに。わたしはこの喋れない顔もないわたしのまま、自由に、受け入れられている。

 確かに、居心地の良さを感じている。


 ……そうだ。ルーが大人になって、幸せになって、おばあさんになって、死ぬまで。どんな人生を過ごすのか、どんなことを思うのか、わたしは少し興味がある。


「ノラちゃん、続きやるわ。見ていてね!」

 休憩は終わり、ルーは勢いよく立ち上がる。

 背は伸びて体は成長しても、わたしに向ける笑顔は小さな頃と何一つ変わっていない。そのことを嬉しく思い、同時に安堵する。

 わたしは、ルーの友達のノラなのだ。

 ルーが変わってしまうその時までは。


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