7・あるスライムのお遊び



 どうも、スライムです。名前はノラ。ノラスライムのノラである。

 ルーに捕獲されて訪れた家が思いのほか居心地が良く、出ていけとも言われないので何となく棲みついている今日この頃。屋敷の使用人のみなさんもやたらと優しくて、わたしはすっかり野生を忘れた。……いや、忘れるほどの野生も元々なかっただろうか。

 何にせよここには生命の危機もなく(スライムには生きようとする気持ちが薄いが)毎日三食スープをもらえて(スライムは食べなくても生きていけるが)庭園でとても良い日向ぼっこを出来る。控えめに申し上げなくても最高の生活である。


 そして何とスライム専用の部屋まで準備してくれた。そう、わたしだけの一人部屋だ。贅沢。というかルーの家はとてもお金持ちのようだ。

 部屋は二階の、元々はいくつかある客間の中の一室だったところだそうだ。狭めのところ、とルーは言っていたが、正直普通にとても広い。この家の狭め基準、広すぎない?とわたしは思った。

 客間だったので人間用の一通りの家具は揃っていたのだけれど、わたしはスライムなので、わたし用のあれこれも追加で準備してもらえた。至れり尽くせりである。

 わたしはその中でも窓辺に準備してもらったベッドがとてもお気に入りだ。犬や猫などが使う感じのペット用ベッドみたいなものが大きな窓のすぐ側に準備されて、ベッド自体がふわふわと高級感溢れる至高の寝心地な上に窓からはぽかぽかと暖かな日差しが入る。もちろん二階なので眺めも良い。


 それにこの家の人たちや使用人の方たちが、わたしに対して敵意もなく、また過剰に構うでもない。そこが何よりとても良い。

 一人部屋なので夜は基本一人になれるし、日中も自由にさせてもらえている。リィンやルーと遊んだりもするけれど、それはそれで楽しいし。それに二人とも勉強もしなければいけないから、四六時中わたしと遊んでいられるわけではない。なので、わたしだけの時間というものは結構あるのだ。

 使用人さんたちも、何だこの自堕落なスライムは、などとは思わずに、定期的に部屋の掃除をしてくれたり食事やおやつをくれるし、休憩時間に撫でに来たりする。まあスライムは排泄物もないし、体はゼリーみたいだけどその液体のようなものが部屋にいても染み付いたりするわけでもないから、恐らく掃除も楽だろう。そういった意味でも手が掛からなくて、歓迎されているのもあるかもしれない。

 そんなわけで良い感情を向けられるのは気分も良いので、お礼をしようと思って時々掃除のお手伝いはしている。

 使用人さんが集めたゴミを食べて回収したり、掃除に使って汚れた水を吸い取って回収したり、雑草を食べて回収したり。食べてばかりだな。

 おいしくはなくてもスライムは雑食なので食べられるのだ。

 最初は驚かれたけれど、重いものを捨てに行く手間が省けたりゴミが減ったりするので、結構喜ばれた。そしてわたしはまあまあ役に立つスライムとしての地位を築いたのだ。




 そして今日もリィンとルーと、かくれんぼをしている。

 追いかけっこだとわたしが全然動かなくてつまらない、とルーが拗ねたので、もっぱらわたしが隠れて動かずに遊べる、かくれんぼで遊ぶようになった。

 二人の勉強がはじまる頃に隠れる場所をのんびり探して、二人の勉強が終わったら隠れたわたしを二人で探し出して見つける、という感じだ。毎日ではないけれど、勉強の前に主にルーに、隠れていてねとお願いされるのだ。

 これは最初は二人が勉強中の間、いたるところでまったりしていたわたしを、勉強が終わった二人が探し出したのがきっかけなのだが、いつの間にかかくれんぼというお遊びと化していた。なお追いかけっこは、『おいかけっこしよー!』と言って走り寄ってきたルーをわたしが全無視したことにより、二回目が開催されることはなかった。仕方ないね。


 しかしわたしの隠れる場所、というかまったりする場所は、大体日向だ。隠れるというより日向ぼっこをしているだけだから。

 その法則を段々とリィンとルーは見破ってきたので、このところ見つかるペースが早くなっている。

 いくら屋敷の敷地が広大とはいえ、日の当たる場所に絞って探せば見つけることは難しくない。ルーはともかくリィンはそのあたりどうも要領が良いようで、ルーの手を引いて各日向ぼっこ適性が良好な現場を効率良く回るようになってきたのだ。

 だがしかし、わたしは自称子供にはまあまあ優しいスライム。たまには隠れる場所を変えて、刺激を与えてあげようじゃないか。


 というわけで本気のわたしが今回隠れた場所……それはずばり、地下のワイン保管庫である。

 そう、この家には地下があり、その中の一つがワイン保管庫なのだ。

 地下だし日向とは縁がない。ワインを保管するための部屋だから窓もない。これまでのわたしの隠れ場所とは正反対と言ってもいい場所だ。

 ワインを取りに来た使用人さんがびっくりしてはいけないので、部屋の片隅にひっそりとわたしは隠れた。ふふふ。ここなら一週間は見つからないのではないか。スライムの本気を思い知るがいい。






「ノラちゃん、みつけたー!」

 ……おかしい。わりと瞬殺であった。

 ワインを誰も取りに来ていないので、夕食前にわたしはあっさりとリィンとルーに見つかった。

 見つけたと言ってわたしを捕獲したのはルーだけれど、実際ここだと予想して導いたのはリィンだろう。ルーの後ろで、にこにこしている。

 何故わかったんだ。こんなところ、普通子供たち来ないじゃん……。


 ルーに抱っこされて地下から移動する。隣を歩くリィンはわたしを見て、楽しげに笑っている。

「何でここがわかったんだろって、ノラは思ってる?」

 わたしの心を読んだようにリィンが話す。

「じつはね、そろそろノラなら本気を出して隠れるだろうからって思って、みんなに聞いてまわったんだ。ノラを見なかったかって」

「そうなの!にいさまとね、いっぱいきいたのよ」

 もはやそれはかくれんぼではなくない?

 ……まあ、二人が楽しそうだからいいか。わたしは子供にはある程度寛容なスライムだからね。



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