怖い話

@reon_0123

聞いた話

 もう、時効じゃろう…。

 老い先短い儂がずっと信じていた、とある話を語ろう…。儂の古い友人が死んだときに聞いた話じゃ…。


 夏の学校帰り電車に乗ったときのことらしい…。そいつ…田中というやつなんじゃが…田中は乗り物酔いがひどくてな、いつも寝ていたそうじゃ。

 じゃけど、その日だけはなぜか寝付けなかった。じゃから、仕方なく窓の外を眺めておったそう…。普段寝ているときは見ることのできない田んぼや、夕焼け…。きれいな景色を見て本当に感動した…と、しみじみ言っておった。

 じゃが、奇妙なことに…なぜか親近感のある神社を見つけた。一瞬のうちに電車で通り過ぎてしまったのに、記憶にへばりついて、離れない。…惹かれ、魅入られる不思議な神社を見つけたのじゃ。何かの縁かと思い、田中はその場所を記憶しようと窓の外に目印がないかと探したそうじゃ。

 じゃが、丁度電車が通っての。窓の外は見えなくなった。その代わり…と言ってはなんじゃが電車に乗ってた人と…一瞬、ほんの一瞬だけ目が合ったそう。そして、その目が合った人は…不自然に笑い出したように見えた。田中は、夏なのに寒気を感じ、背筋をなぞられたような感覚に陥った。

 じゃけど、しばらくするとその感覚も薄れ、また窓の外を見始めようとしたとき。信じられない光景を見た。


 …さっきの人が、窓にへばりついているという光景じゃ。


 田中は本能的に命の危機を感じ…目を強く、強くつぶった。話したこともないのに、その人の声が脳内で再生される。


 "ミタナ…?ミタヤツハ…"


 次第に大きくなるその声に伴って、田中も更に強く目をつぶった。


 しばらくして、田中は目を覚ました。いつも目が覚める、降りる一つ前の駅で。長い、長い終わらない夢、リアルな感触のある悪夢を見た感覚だった。普段の、変わらない日常に戻ったと、そう思ったそうじゃ。


 じゃが、安心して目を覚ました田中は、隣にいる人の顔を見て絶望したそうじゃ…。

 "殺される"と…。


 そう語って田中は息を引き取った。…最期にヤツは、こう言った…。

 これを、ほ、かの、ひと、にいっ…た……ら────




 人が一人、また息を引き取った。

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