額縁
夫が急に額縁を買ってきた。
突然に。
私に何か相談することもなく。
元々夫は芸術に対して興味や関心がない。
休日、美術館に行こうと言えば顔をしかめるタイプの男。
私は額縁を見つめる。
それは立派な額縁で、琥珀色の装飾が施されたA4サイズのもの。
アンティーク西洋家具屋に置いてあるような赴きのあるそれを、夫はリビングの壁に、ソファの中央真上に設置した。
うちに絵画はない。
それで構わない。
そう主張するかのように、夫はプリンターで印字した紙を一枚、手に持っていた。
飾られるのは一枚の紙であり、中央には黒の文言。
一文のみだった。
Tell all the Truth but tell it slant
エミリー・ディキンソンの詩。
『真実をそっくり語りなさい、しかし、斜めに語りなさい——』
夫は少し上質な用紙に、かの一文を印字した。
その日から、リビングにはエミリー・ディケンソンの詩が飾られ、彼女の魂が同居した。
これからの生活で私たちは真っ直ぐ並べられたソファに座り、それを眺めることもあるだろう。
詩が鎹になって何が悪い。
言葉が鎹になって何が悪い。
傾斜は、緩やかなほど好まれるのだから。
それでも、ネットからのコピペで印字せずに原書を買えよ、と私は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます