第6話 テツ君とマーちゃん







 元宮「………あ」



 「どうした?」



 元宮「明日は土曜だったよね?」



 「あ、そういえばそうだね」




 何の変哲のない日常だから忘れてた




 元宮「てつ……やくんは明日何か予定はある?」



 「特にないよ」





 流石に【テツくん】2回目は呼びづらいみたいだな





 元宮「私も明日は部活が休みなんだよね」



 「そっか、フェンシング部は土曜が休みだったね」



 元宮「そうなんだ………だから、明日はいつ起きてもいいんだよね…」





 ん?いつ起きてもいい?




 

 元宮「哲也君はこの後予定ある?」



 「え、特にないけど……」



 元宮「そ、それじゃあ……///」



 「な、何?」




 元宮が赤くなりながら他所を向いた………




 







 元宮「私の家までちょっと歩かない?」




 



 「え…」






 一緒に歩く……




 え?




 一緒に歩く?




 え、あ…




 一緒……








 元宮「ダメ……かな?」



 「あ…え、い、いやじゃないよ!!全然!!ただ……!!」




 やべぇ……バッキバキの陰キャな俺がこんな美人と一緒に歩くなんて……




 やべぇ





 元宮「もしかして、ご飯の途中だったりした?」





 「!!?……まっ、まぁ、そう…だね」





 何言ってんだ俺





 元宮「それだったらいいの!!ご、ごめん!急にこんなこと言っちゃって」



 「」





 違うと言え俺!!





 「………………








        元宮」






 元宮「ん?」







 「今日はお疲れ。ゆっくりおやすみ」





 


 やっちまった 




 

 元宮「あ……ありがとっ!じゃ、じゃあおやす……







 ガチャっ!!








 雅恵「あーらまだ帰ってなかったのね!!」








 「「!!?」」




 いきなり母さんが出てきて俺達は驚いた



 雅恵「これ、最近作ったグラタン。多く作ちゃってたから余っててね!!良ければ食べて」



 そう言って母さんは大きめなタッパーに入ったグラタンを俺に渡してきた



 「え………」











 雅恵「もう暗いし、テツにうちまで送ってってもらうんでしょ?」










 元宮「!!」



 「……!!」




 母さん……まさか……



  

 雅恵「真綾ちゃん疲れてるでしょ?だから、コイツにどんどん荷物持たせちゃっていいから!!」



 元宮「え、あ、いや……哲也君は今、夕食の……





 雅恵「え?もうテツはとっくに食べ終わってるわよ?」





 「」



 元宮「あ……」






 こういう時の母さんの状況を読む能力は異次元だ



 陰から覗いてたな

 






 雅恵「じゃあ、近所とは言っても【日付が変わる前】までには帰って来なさいよ?じゃあ真綾ちゃん、おやすみなさい!!」


 


 元宮「あ、ありがとうございます!!」ペコっ!




 母さんは『いいのいいの!!』と言いながら家の中に戻って行った




 「……………」




 まさか、母親に助けられるとは……



 正直、顔から火が出るほど恥ずかしい……




 元宮「…………」




 さて、この何とも言えない空気をどうしようか………






 元宮「哲也君」



 「え…あ、はい」





 元宮「それじゃあ、行こっか♡」クス





 「………はい」





 そうして俺達は約5分の道のりを歩いた

 






 スタ スタ スタ






 正直、嬉しくないと言えば嘘になる



 めちゃ嬉しい



 母さんのナイスフォローで一緒にいれる時間が増えた







 スタっ






 つっても、もう着いちゃったけど







 元宮「送ってくれて……ありがとね」(なんか何度も『ありがとう』って言ってるけど変じゃないかな……)





 一度家に荷物を片付けた元宮が再び戻ってきた





 「いえいえ、ちゃんとエスコート出来てたんだったら良かったよ」クス




 今のキモいかな




 元宮「………荷物持ちみたいにしちゃったね」



 「いや荷物つっても、実質母さんが持たせたグラタンだけだし元宮の物は何も持ってないよ」



 元宮「そっか……」


 

 「それじゃあ今度こそ、お別れだね」



 元宮「……………」

 


 「おやす……




 元宮「待って!!」




 「!」




 元宮「そ、その……」



 「どうした?」




 元宮「さっ……さっきの続きだけど折角会えたんだしもう少し話さない?」




 「!………いいよ」













 






 俺達は元宮の家の前にある公園まで移動した




 この公園は 元宮、ケン(調月健太)、水瀬など幼馴染と中学に上がるまでよく遊んでいた場所だ




 錆びれた滑り台に鉄棒。コンクリートで出来た水道。ジャングルジムにブランコ…




 何も変わってない





 元宮「………」



 「………」





 俺達は板で出来た長椅子に腰を掛けた



 丁度3人掛け程の所だからそれぞれ両方によって真ん中を開けた状態で座った




 そして、座ってから1分程……




 元宮「覚えてる?よくここでシャボン玉をして遊んだよね」




 元宮がこう切り出した



 「あぁ……覚えてるよ」



 元宮「哲也君、口にシャボン液を含んで口でシャボン玉を作るとかって言って液を一気に沢山飲んで大泣きしちゃったよね」クス



 「うぇっ!?………あったっけ///?」カアァァァ



 元宮「あったあったー……赤くなってるね」ニッ






 そういやそんなんあったわ…



 まじ恥ずすぎる…




 元宮「『鉄棒の上で綱渡りするっ!!』って言って鉄棒の鉄の上に立とうとして滑って落ちて骨折したこともなかったっけ?」



 「き、記憶違いじゃない?」プイっ



 元宮「………ふふっ……






     あははっ!!」




 「!」





 元宮が急に笑い出した





 元宮「なんか思い出すなー!哲也君との思い出が」クスクス




 哲也「……そうだね」クス






 元宮を見てると俺も何だか思い出す



 よく、遊んでいたな……



 

 だからこそ思う








 何で元宮と俺は……………








 「……………」




 元宮「て……つや君?ど、どうしたの?私の顔を見つめて……」(え、え……哲也君の顔が……め、目の…の前に…)





 ※元宮は目の前に顔があるのは当たり前の事なのにテンパった 

 

 



 「………!、ご、ごめん!!急にガン見しちゃって!」プイッ


 

 俺はさらに頭から湯気が出るくらい熱くなるのを感じた




 元宮「………………」

 


 「…………」



 

 暫く沈黙が続いた




 元宮「哲也君」



 「ん?」










 元宮「哲也君はもう空手はやらないの?」









 「!」



 元宮「ごめん、哲也君からしたら聞いてほしくないことかもしれなけど……」



 「……………」



 元宮「哲也君はもうしないの?」



 「しないよ」



 元宮「」



 「中学までで十分だよ。高校は新しいことを見つけるって決めてたから」ニコ




 で、今に至ってる訳なんだけど




 「それに……俺には……」









 

 空手をやる資格なんてない






  



 元宮「…………そっか」(そうだよね……)



 「…………それよりさ、元宮のご家族の方はみんな元気にしてる?」



 元宮「え、あぁ、元気にしているよ。この前だってお母さん、ロッククライミングでね……」







 元宮の家族も全員スポーツをやっている




 お母さんはバレー、お父さんは野球、お兄さんは空手、お姉さんは剣道



 簡単にいうと家族全員テレビでインタビュー受けるほどの腕前だ







 「そういえば、元宮のお父さんが監督している【浅見大(あざみだい)高校】は今年はどんな感じなの?」







 元宮のお父さんは国語の教師で野球部の監督をしている




 

 元宮「『今年こそは決勝で真綾の高校と戦って勝つ!!』って言ってるよ」



 「確かにうちの高校も後少しで甲子園に届くってレベルだもんな」



 元宮「そうだよね。でもお父さんには悪いけど私は自分の高校に勝ってもらいたいなって思っちゃってる」クス



 「ははっ、まぁ気持ちは分かるよ。それにさ……」







 

 この後、俺達は1時間ほど話していた




 こんなに話すのは本当に久しぶりだった

 








 「で、鈴木と俺が自習中映画 を見てるのがバレたって訳」



 元宮「ふふっ、そんな長時間ものを見たら流石にバレるよ」クス



 



 

 何でこんなに喋れるのか分からなかった








 元宮「それじゃあ、そろそろ……」



 「そうだね」スッ





 もう午後10時頃だった





 元宮「何度も言ってるけど今日は付き合ってくれて本当にありがとう」




 「いえいえ」





 元宮「…………哲也君」



 「何?」









 元宮「また、話そうね」ニコ


 







 「………そうだな」ニコ









 お別れはこの一言で充分だった



 逆にこれしかいい挨拶が思い浮かばなかったってのもあるけど





 「じゃあおやすみ」



 元宮「おやすみ」



 





 こうして俺達は別れた








 といけたら良かったんだけど……






 スタ スタ





 ??「あれ、真綾?」



 「!!」



 元宮「!!







    お兄ちゃん!?」






 大変な人と会ってしまった




 正直、【今】会うのが一番面倒な人だった






 続

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