第44話 金で買った欲しい物

「王妃が誰かに攫われたと連絡を受けて、ソジトの率いる騎士団が動いたんだが、リリィの要請を受けた一部の騎士たちがすでに場所を押さえていると聞いた。しかも君は真っ先にそこに一人で乗り込んだのだろう?」


全然違うということはないのだが、なぜか微妙に違う。

アンシムを見かけたから、グイッジに連絡をしたのだ。見かけた場所を伝えて、一人で会いに行けば逃げられるかもしれないから、周囲を警戒してほしいとお願いした。

グイッジは仲間に声をかけておくと言ってくれたので、リリィはこうしてアンシムに会いに来たのだ。


王妃が攫われていて、その誘拐に彼が関わっていることは知らなかった。


「彼女は本当に勇敢だったわ。たった一人で私を助けにきてくれたのよ。本当にありがとう」


カプラシルがソジトの隣で、朗らかに笑う。

いや、貴女は偶然やって来たという真相を知っていますよね。

なぜ、いい感じにまとめようとしているのでしょうか。


リリィは思わず胡乱な瞳を向けてしまった。

だが、状況を問いただす前に、確認したいことがある。


「ダミュアン様、ちょっと確認させていただいてよろしいでしょうか」

「なんだ」

「ダミュアン様の初恋は王妃様で間違いありませんよね?」

「は?」

「いえ、こうして私を抱きしめていると誤解を与えると思うのですが……」


リリィは本人を前にして恋心を暴露するのもいかがなものかと躊躇いつつ口にしたが、一応彼の初恋は周知の事実ではあるのだ。古傷を抉るような行為かもしれないが、リリィだって十分に混乱しているので許してもらいたい。


「……カプラシル」

「――ひっ」

「あーあ、だから、お前の案は碌でもないって言ったじゃないか」


重低音で王妃の名前を呼ぶダミュアンに、カプラシルは大仰にのけ反った。

先ほどよりもずっと真っ青な顔をしている。

その横でソジトが天井を仰いで呻いた。


「だ、だって……良かれと思ったのよ? ほら、失恋した男って慰めたくなるじゃない……? ダミュアンに優しい可憐な子が近づくかと思って……」

「言い訳だな。こうして迷惑被っているのはダミュアンだろ」

「ええ? っていうか、愛をお金で買えると信じているダミュアンに問題があるんじゃないの。ちゃんと相手が好きなら好きって言えばいいじゃない! なんでお金を払って買っちゃうわけ?」


真っ青な顔のまま、カプラシルが叫べば、ダミュアンは冷静なまま答える。


「なぜ、欲しい物を金で買ってはいけないんだ。俺はそれだけの財力はある」

「たとえ財力があっても、愛情なんて金で買うものじゃないわよっ。相手に懇願すればいいじゃない」

「懇願? そんな口約束で一体何が縛れるんだ。逃げられたらどうする」

「貴方が逃がすつもりがあったなんて驚きだわ!」

「何事も絶対はない」

「そこは一般的なんだな。他は非常識なくせに」


ソジトが呆れたようにため息を吐いた。


リリィは茫然とダミュアンの腕の中に納まっているだけである。

三人の会話は意味がわからない。


つまり、どういうことだ?

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