閑話 傲慢公爵の恋7
「度々呼び出すのはやめてくれないか」
ダミュアンはまたカプラシルに呼び出されて王城の中庭にいた。
テーブルには茶会の用意がされているが、席は二つ。
今日はソジトの姿はない。
なぜかダミュアンだけを呼んだらしい。
これは兄の嫉妬を煽るのではないかと一抹の不安を覚えた。
けれど、何より度々呼び出される理由がわからない。
彼女を喜ばせるような楽しい話題の提供など、ダミュアンには一つもないのだから。
「だって、ソジトがなんだか面白いことになっているって言うんだもの。私も楽しみたいわ」
「俺で遊ぶのはやめてくれ」
心底うんざりして告げれば、カプラシルは心外と悲しそうな顔をする。
あくまでも表情だけで、実際には少しも堪えていないことなど長い付き合いであるのでお見通しだ。
「あら、そんなことないのよ。心配しているのは本当なのだから。随分と噂とは違う女狐だって言うじゃない? それで、ダミュアンが骨抜きにされているって聞いたから」
そう言って優雅にカップに口をつけた。
「女狐じゃない。リリィは可愛い」
ダミュアンは大真面目に答えたというのに、カプラシルは飲んでいた茶を気管支に詰まらせたらしく、盛大に噎せた。
げほっと何度かせき込んで涙目で、ダミュアンを見つめる。
「な、なんですって?」
「リリィは可愛いと言ったんだ。おはようと起こしてくれる。おやすみと頭を撫でてくれる。お帰りなさいと口づけをくれる。格好いいと褒めてくれる。恋人というのはいいものだ。可愛くて愛しい。そのうえ、いい匂いがするし、柔らかくて温かい」
「な、もう手を出したの?」
「金で買った俺のものだ。俺の好きにして何が悪い?」
「相手は成人したばかりでしょっ。もっと段階を踏みなさいよ」
「段階?」
よくわからないが、恋人というものは何か規則があるらしい。
一緒に住むだけではだめなのか。
ダミュアンはわりと満ち足りているのだが、もしかしたらリリィは不満に思うことがあるのかもしれない。
「ソジトの家の夜会に連れて行ったそうね。随分と貴方の溺愛が噂になっていたらしいわよ」
「愛を買ったんだ。愛しているのは当然だろう」
「はあ、なんでそんなにお金を妄信するようになっちゃったんだか……愛がお金で買えると信じているあたりよくわからないけれど、まあ、いいわ。それより、ちゃんと贈り物したり、デートしたりとかしているのでしょうね」
「デート……?」
贈り物はこの前の夜会のためにドレス一式を贈っている。
リリィはとても喜んでくれた。
それを着たリリィはもちろん可愛かった。
普段の格好でもリリィらしいけれど、着飾ったリリィもどちらも愛でられる。
だが、デートとはなんだろうと首を傾げる。
「一緒にどこかにでかけたのかと聞いているのよ」
「夜会に行った」
「そうじゃなくて、街に買い物に行ったり食事をしたりとかよ」
「夕食は一緒に食べている」
「それは一緒に住んでいるからだと聞いたけれど」
「きちんと契約書に明記したからな」
「だから、なんで商談のように語るの? そんなに蕩けるような柔らかな顔をしているくせに、どういう情緒なのかしら」
「顔……」
どうやらカプラシル相手だと、リリィの話をしても普通ににやけているらしい。
「俺の顔は問題だろうか」
「問題といえば問題なのかしら。いい年した男が年下の少女に振り回されているのは滑稽よね。リリィが可愛くて仕方ないって顔をしていると思うけれど。あれでしょ、彼女をお姫様みたいに扱って、下僕のように恭しく傅いているんでしょう?」
「リリィが可愛いからだ」
「私に惚気てどうするの。そうじゃなくて、下僕を否定しないのが問題なんじゃないの。お金で買ったくせに、随分とまあ入れ込んでいるのよね。貴方の一方通行にならないように、忠告してあげているのよ」
「金で彼女の愛を買って、きちんと契約したんだぞ。一方通行とはどういうことだ?」
「私に怒っても仕方ないでしょ。貴方のそういう感覚って一般的じゃないのよね。だから、彼女を喜ばせるためにデートしろって言ってるんじゃない」
頭痛を堪えるように、カプラシルはつっけんどんに答える。
だが、ダミュアンには彼女が何を心配しているのか少しも理解できなかった。
ただ、言われるままにデートとやらに行けばいいのかと思うだけだ。
「デートをすれば喜ぶものか?」
「普通の恋人ならデートくらいはするものよ。貴族の婚約者だって、二人でどこかに遊びに行くでしょう? 貴方たちの場合はそれ以前の問題だとは思うけれど、当たり前のことをして築き上げていくのも大切よ」
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