第37話 休日のお誘い
明日はどこかへ行こうか、と問うてきたのはダミュアンだ。
仕事はどうしたと聞いたが、一日休みにするらしい。
もともと週に一日は休みというものがあるとの話だった。
貴族は優雅だな、と感心していると、外国の制度だと教えてくれた。
外国では貴族だろうが平民だろうが、週に一日は休みをとる決まりがあるらしい。
いつかこの国にも根付くといいと、彼はちょっと寂しそうに笑う。
リリィは休みというのは寝る時間だけだ。
めいっぱい働いて、死んだように眠る。それが普通だっただけに、一日休みをとってしまうと、それだけ金が稼げなくなるということだ。それはとても困る。
皆の稼ぎでなんとか運営できている孤児院だからだ。
考え込んでいると、ダミュアンは躊躇いがちに口を開いた。
「では、君の一日を買ってもいいか」
「それは、ちょっと……」
すでにダミュアンからは愛の売買契約を結んで金銭を支払ってもらっている。
これ以上の支払いはなんとなく問題があるような気がする。
上手く言葉にできないのだが、それはしたくないのだ。
「じゃあ、せめて半日、いや二時間ほどならどうだ?」
ダミュアンは雇い主であるので、そこまで譲歩されるとリリィとしては断れない。
「わかりました、明日だけですからね」
「ああ!」
頷けば、とても嬉しそうに笑われた。
そんな顔をしたダミュアンは初めて見たので、リリィは面食らう。
そんなに喜ばしいことだろうか。
孤児院の子どもたちも昔はリリィが孤児院にいると嬉しそうにしていたし、それと同じだろうか。今はミトアが子どもたちの母代わりで面倒を見てくれているので、リリィは思う存分働きに行けるのだ。
そんな孤児院の子どもたちと無理矢理ダミュアンを重ねる。
そうでもしないと、リリィが落ち着かない。
あの夜会から、リリィはおかしくなってしまった。
というか、ダミュアンもおかしい。
傲慢さは相変わらずだけれど、距離が近いというか、雰囲気が柔らかいというか。とにかく、何かが変なのだ。
デイベックに何か言われたのだろうか。
リリィはやっぱり落ち着かない気持ちのまま、ダミュアンを見つめる。
彼の青の瞳に輝くスターライトは、星屑の煌めきだ。
明るい部屋の中では、より一層の輝きを増す。
「お前は、俺の瞳をじっと見つめるよな」
「あ、すみません。つい……」
つい、目を奪われて?
つい、見とれて?
リリィは思わず言葉に詰まってしまう。
だと言うのに、ダミュアンは優しく微笑んだ。
そんな顔もできるのかと、驚くほどに。
もしかして、今、目の前にいるのはダミュアンの偽物なのかもしれないなんて馬鹿なことまで考えてしまう。
「もっと見ていて、いいんだぞ」
リリィの手を取ると、ダミュアンは自身の頬に当て、覗き込むように身を屈めた。
「いえ、不躾でした。申し訳ありません」
視線を逸らして早口に謝罪すれば、ふっと笑う気配がする。
「お前に見つめられるのは、悪くないんだがな」
「え?」
「明日の午後だ。何処に迎えに行けばいい?」
思わず問いかけたリリィに、ダミュアンは別な質問を返した。
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