第18話 対照的な二人
次の日は、日の出前に目覚めて、孤児院へと向かった。
到着すれば既にミトアによって、朝から隊が分けられていた。既に日はのぼりはじめていて、明るくなってきていたので、ありがたい。
「おはよう、ミトア」
「おはよう。そしておかえりなさい。ゲミ、海はよろしく」
「おー」
ミトアと話していたゲミは網を片手に持っていた。
短く返事をして、彼は数人の子どもを引き連れ孤児院を出ていった。
その背中を見送って、大きくなったなぁとしみじみ思う。
「わざわざ朝早くに戻って来なくても大丈夫よ?」
「皆が凄くしっかりしていることに感動したわ!」
瞳を潤ませて告げれば、ミトアが少し照れながらはにかむ。
うちの子達は本当に可愛い。すれてないし、真っ直ぐだ。
ミトアのサラサラの髪を撫でれば、受け入れたまま彼女が視線だけ動かして見上げてくる。
リリィが無理をして疲れていないか確かめているようだ。
他人をきちんと気遣えるのも、美点である。
「公爵様って朝は凄く弱いと聞いたの。だから、朝から起こすのは止めようかと思って。その時間はこっちに来ることにしたのよ」
「そうなの?」
「寝てるのに、物凄く不機嫌そうに唸って、眉間の皺をめちゃくちゃ深くするの。ちょっと面白かったけれど。まぁ叱られない内にやめておこうかなって。執事さんにも確認したら、その方がいいと思うって。ずっとおろおろしていたから心配してくれていたのよね」
様子を語りながら顔を真似すれば、ミトアがクスクスと笑いだした。
「リリィ姉、凄い顔よ。本当にそんな顔になるの?」
「ええ? たぶんうまく再現できてると思うんだけど」
「うん、そういうことにしておくから。とにかく子どもたちを起こして着替えさせなくちゃ。じゃあリリィ姉は朝食担当でいい?」
「はーい、さぁ今日も一日働きますか」
気合いを入れれば、ミトアがおーっと元気に返事をしたのだった。
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一方のフィッシャール公爵家では、寝室の扉の前で執事が途方に暮れていた。
その横にはデイベックもいる。
先ほどから雇い主に声をかけるものの、不機嫌な唸り声が中から聞こえるだけだ。
「病気ですか? どこか苦しいなら、医者を手配しますよ」
「それが、ですね……病気ではなさそうなのです」
部屋に向かって声をかけ続けるデイベックに執事がおろおろと告げた。
「病気でないなら、突然どうしたんです?」
デイベックが記憶にある限り、ダミュアンという男は仕事人間だ。中毒と言ってもいい。
だというのに、昨日は事務所として構えている場所に顔を出すことはなかった。
毎日、必ずどんなに短い時間だろうと顔を出していた男が、である。
事務所で仕事を片付けながら、デイベックは日が沈んでいく事務所でぽつりと残りながら、ぼんやりと一日の終わりを眺めたほどだ。
だから、こうして朝早くから公爵家にやってきたというのに、ダミュアンは部屋から出てこないという異常事態である。
「何があったのか、詳しくお聞きしても?」
デイベックは内心の動揺を悟られないようにしながら、執事に向かってひとまず笑顔を向けたのだった。
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