第5話 普通じゃない紹介状
借金取りであるセイガルドに断って、すぐに仕事場へと向かう。
完全に遅刻である。けれど、今日はとても仕事にならないこともわかっている。
リリィの仕事場と言っても、まずは朝一番に職業斡旋所に向かい仕事先を紹介してもらって日銭を稼ぐのである。決まった場所はないので、遅刻とも言い切れないのだが、割のいい仕事はすぐに決まってしまうので、出遅れてしまったリリィは諦めた。そもそも多額の借金を抱えてしまったので、日銭を稼いだところでどうにもならない。
けれど、相談できるのは職業斡旋所にいる孤児院出身の幼馴染みしかいないのも事実である。
「キナああああ……」
職業斡旋所について、受付カウンターに並び、順番が来た途端に、リリィは幼馴染みのキナに泣きついたのだった。
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「アンシム? あいつ、そんなことになってるの!?」
孤児院出身でリリィと同じ年のキナだ。
一通り話を聞いたキナは目を吊り上げて怒ってくれた。
リリィは個室に案内されてお茶を啜っているところである。特別待遇ではあるが、職業斡旋所で引く手数多の優秀な働き手であるリリィの評判の良さと、やり手とされるキナのコンビは知れ渡っているので、邪魔をしてくる者はいない。
いつもは仕事を紹介してもらえばすぐに働きに出るので、こんなにゆっくりすることはないのだが。
「あの馬鹿、無口で何を考えてるのかわからなかったけれど、そんな悪知恵ばかり働くものね。まさか孤児院の土地を担保に金を借りるだなんて……」
「入れ知恵は別らしいんだけど。それも孤児院つながりよ。とにかく、とんでもない額なの」
キナは呻くようにつげて、顔を顰めた。
リリィも途方に暮れるしかない。
「そんな多額の借金返せる余裕なんてないよ……どうすればいい? 寄付された物品はデーツのところに預けてあるけど、僅かなお金にしかならないし」
貴族や金持ちから寄付された物品のうち、生活に使えないような置物や絵画、お下がりのドレスなどは質屋に奉公しているデーツに預かって貰っている。正直、ガラクタばかりで金にならないのでないよりはマシ程度ではあるが。貴族たちは庶民の生活が想像できないようで、援助がどこかずれているのだ。単純にお金を渡せばいいと思うのだが、普通に金を渡すのはなんだかよくわからない貴族の美徳に反するらしい。では食べ物が欲しいと願っても、欲しいものを欲しいと口にするのは貴族の観念からは恥ずかしいことらしい。それだけはしてはいけないと伯爵から教えられている。
全く面倒なことだ。
お陰で使う宛のないガラクタはデーツが嫌々引き取って分解して売り捌いてくれている。大っぴらにできないのが、難しいところだ。もし寄付された物を売っているとばれて貴族たちを無駄に怒らせるわけにもいかない。
「身売りしたところで、私じゃあそんな大金稼げないよね?」
「身売り……うーん、一つ、手がないわけじゃない……」
「え、本当?」
キナは腕組みをしながらうんうん唸って、そうして躊躇いながら口を開いた。
「本当はあんたに紹介するつもりはなかったんだけど……貴族嫌いなあんたには向かない話だし……」
「依頼が貴族なの?」
思わず顔を顰めれば、キナはやっぱりと同じように顔を顰めた。
「そんな反応だとは思ったわよ。まあどうせ断れなかったし……」
「何?」
「ちょっと待って、所長のところ行ってもらってくるから」
「紹介状なんだよね?」
普段、仕事の斡旋をするために必要な紹介状は受付カウンターの後ろの棚に業種別に置いてある。そこから仕事を選んで渡してくれるのが受付の仕事である。
なぜ、紹介状が斡旋所の所長のところにあるというのか。
「普通じゃない紹介状だからだよ」
「普通じゃない?」
「まあ、持ってくるから。内容読んで、大丈夫なら行ってみたらいいんじゃないかな。少なくともうまくすれば、借金の肩代わりをしてくれるかもしれないし」
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