移ろぐ世界で

鈴乱

第1話


 僕の口から出る言の葉なんて、全部が嘘だよ?


 愛してるも、大好きも、……大嫌いも、ね。


 いいじゃないか。人は勝手に信じたいものを信じる。


 自分にとって都合のいい言葉を、真実だと思って信じるだけさ。


 僕が血眼になって、「愛してくれ!」なーんて言ったって、それをするかどうかなんて相手の勝手だろう。


 ……人の心なんて移り気だからね。


 ころころ変わって、捉えどころがない。


 泣いてたと思ってたら笑うし、笑ったと思えば怒るし、おとなしいと思ったら暴れるし……。


 そんなものさ。


 落ち込んでたとしても、四六時中落ち込んでるってわけじゃない。ふとしたきっかけでひょっこり気分が変わる瞬間だってある。


 そんなもんでしょ。


 そんなもんだからさ。そんなに必死になって、自分を押し殺してまで、やんなきゃいけないもんなんて……本当はないんじゃないのー?


 あぁ、いや。君には酷な話かな。

 この世界に『確かなもの』があると思ってる君には。


 ……そう思ってた、過去の僕にも。



 うん。まぁ。僕だって思うよ。

 こんなに移ろいやすい世界で、それでも変わらず、ひたすらに何かを思う心。欲しい、と願う心。


 諦めきれない心ってのは……それはそれは貴重でさ、美しいものなんじゃないかなぁ、って。



 ……ねぇ? 君は見つけたんだろう?

 その、美しいものを。

 だから、そこで、泣いているんだよね?

 失いたくない、失えない、大事な大事なものを。


 諸行無常、だけど、慌てることもないさ。

 ゆっくり行こう。


 辿り着きたいところがあるんなら。

 欲しくてたまらないものがあるんなら。

 手放せないと思う存在があるのなら。


 次はちゃあんと辿り着けるように。

 手に入れて、しかと保ってゆくために。

 もう二度と、手放さなくて済むように。


 そして、何より、君が再び大怪我を負わないために。


 今はただ休んで食べて、その旅に備えるのが……君の務めってもんじゃないのかい?



 

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移ろぐ世界で 鈴乱 @sorazome

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