第24話 ゾンビ伝説5

 しかし、ごるごはけっして泣くことはない。なぜなら彼女は、想いを寄せるイケメンの男たちを常に泣かすのみなのだ。


 程なくテーブルにスタ丼肉増しが、おごそかに運ばれてくる。震える両手でスタ丼を載せたトレイを、高らかに捧げながら・・・・・


 「お待ちっでざぃます!」


 先程とは異なるが若いイケメン店員が、タンクトップからのぞく、彼女の見事な大胸筋を覗き込んでいる。


 あまりの興奮に震えながら、しかもタップリと大きい方も漏らしながら・・・・・


 「まったくもぉ若いんだからぁ、逝くのが早過ぎるざぃます。あっそれから、ナイフとフォークをよろしくざぃます」


 店員が丁重にお届けしたVIP専用の純銀製のナイフとフォークを器用に使い、スタ丼をセクシーに食する。まずはスタ丼を1口、そして次はさり気なく味噌汁に移る。


 味噌汁はズズーッと大きな音を立てて一気にすすり上げながら飲む。これは江戸前で粋そのものだ。


 スタ丼はフレンチのごとく、そして味噌汁はあくまでも江戸前に、それが粋というものなのである。


 すべての店員が、そしてすべての客が、凍りついたように固まって彼女の艶姿を見つめ、いや見惚れている。


 ほんの瞬きの時間であったのかもしれない。丼は舐めたように輝いていた。いや確かにフランス風に舐め上げてていた。


 下を向いてため息とともに、糖尿のように甘く囁く。


 「もお、結構いけちゃうんだからざぃます」


 やはり語尾はフランス訛りが目立つようだ。しなやかな右手の指には、ヴィトンのシルバーの爪楊枝が輝いていた。


 南口のあの伝説のスタ丼店で、店員はもとより客まで巻き込んで、彼女が起こしたセクシー旋風。


 愛の宣教師ごるごが立ち去った後は、ただ精を抜かれたような、甘くせつない哀しみのみが漂っていた・・・・・


 時計の針は12時10分を指していた。待ち合わせまでまだ20分ある。


 立川駅南口には、世界のラーメン愛好家たちが集うアレアレアというラーメンスクエアがある。


 ラーメンスクエアが居座るビルの隣に、今日、原稿を受取る待ち合わせ場所である珈琲館がある。


 今日の相手は、『洞好存美(ほらすきぞんび)』というホラー専門の作家である。あの『死霊のはらわた賞』を受賞した、世界的にもかなり高名な大先生である。


 身長は180cmあるが体重は40kg弱、ナイトメアのジャックスケリントンに容貌が酷似しているため、業界ではゾンビのジャックと呼ばれている。

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