第20話ゾンビ伝説1

 街が霞み揺れながら白く光っている。まるで砂漠の燃える陽炎のように。


 暑い、まるでサウナの中だ。ホンモノのサウナの中でなら、熱く火照った体を冷やす水風呂で、自慢の小さなお友だちから、水分と一緒に一気に放熱することができるのに・・・・・


 街中ではそうもいかない、ましてや常識人である限りは。ちょいと人目を忍べる電柱の影なら、密かに放熱できるかもしれないが・・・・・


 街を歩く人々もミイラのように干からび息も絶え絶えである。辛うじてビルが創った小さな日蔭に身を寄せ合い、半分泣きながら立ち尽くしている。


 白い街中を、灼熱の日向を、黒い影が颯爽と通り抜けていく。歩道に妖しげな影を引きずりながら。


 髪はベリーベリーショート、いやむしろマルガリータである。サーモンピンクのタンクトップ、初な乙女の純白ミニスカに、足元は雪色のピンヒールが粋である。


 タンクトップが汗にせつなく濡れている。まるで脂が乗ったトロサーモンのように、しっとりと光り輝いている。


 チラ見ではあるが、間違いなくFカップはある胸が、タンクトップをセクシーに押し上げる。


 大きく抉れた脇もとからは、男心を誘う漆黒のブラが垣間見え、初な乙女のみが許される、純白のミニスカの後姿には無粋な下着ラインは無い。


 かってモンローが愛用したTバックは、実は彼女の模倣であったとも言われる。カモシカのような見事な足には、雪色のピンヒール以外には考えられない。


 大きな胸を強調するような、襷掛けのショルダーは、もちろんヴィトンのダミエ・アズール。


 通り過ぎる影が引き連れる、残り香はレディガガのフェイムだろう。


 ヒールはもちろんルブタン、トップスとミニスカはシマムラ。まさしく真夏の熱風なような淑女である。


 焼けつく陽射しにも汗ひとつかいてはいない。真に尊き者はそういうものなのだ。


 バッグの中に一応ハンカチはある。まるで赤子の柔肌のような、柔らかなゴルチエのチーフは、トイレの紙切れ用の予備としても活用する。


 またバックには彼女の非常食を常時備えている。あの高名な大心堂の雷おこし『古代』は常に欠かしたことがない。


 語り継がれる古き神々の伝説に、雷の神、雷おこしを常に食すとある。この非常食1つをとっても、彼女は雷の神の末裔と確信できる。


 強い陽射しの中、軽く眉を寄せて腕時計を見つめた。愛用の渋いミッキー時計は11時30分。待ち合わせにはまだ1時間ある。

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