第18話 畏れうた2

 『何なんだろう? この洞穴は?』


 かって探り当てた者などいない、多摩の山林の陽も当たらない奥深くに、密かに口を開けた洞穴である。


 輝くほどに磨き上げられた床面、壁面。

さらには天井には様々な紋様が彫られ、桜色の自動照明まで設置されている。


 50畳ほどの大広間の真ん中に、金色に輝くテーブル状のものがある。その周りに同じく金色の椅子らしきものも4つ置かれている。


 信二郎はさり気なく近づき、観察、触察し、さらには舐察してみた。


 まごうことなき黄金そのものである。表面には豪華かつ繊細な紋様が施され、造られた時代の文化の高さが感じられる。


 信二郎は頭の中の記憶にある、過去の研究で知り得た全ての時代に、走馬灯のように想いを巡らす。


 無い、永き人類史上には存在しないものである。黄金のテーブルや椅子らしきものも、壁面や床面の造作、天井の紋様、そして自動照明も・・・・・


 これは間違いない。信二郎は既に確信していた。神学界の神才と怖れられた神頼信二郎のみが推定した、人類生誕の遥か以前に存在したといわれる、限りなく古く聖き神々の時代のものと思われる。


 信二郎が今まで人生を尽して行ってきた調査研究を掘り起こし、推測・推察し辿り着いた結果である。


 人類生誕以前に存在した古き神代に、尊き4柱の自然神が存在されたと想われる。風の神、雷の神、光の神、地の神、この4柱の神々が世界の中心である神の地『多賀摩雅原禊(たかまがはら)』において世界を治めていた。


 因みに、『多賀』は喜び多く、『摩雅』は優れ気高い、『禊』は浄めるの意味を持つ文字であり、多賀摩雅禊から多摩の名を継がれたと、神学史上では多くの理解を得ている。


 4つの黄金の椅子の背には上部に紋章あり、風紋章、雷紋章、光紋章、地紋章と思われる紋章が印されている。


 この空間こそ4柱の自然神の集われた場、信二郎は強く確信していた。


 激しい感動に熱い涙が頬を濡らした。心を燃やすような興奮が、小さなお友だちさえ屹立させていた。


 4つの椅子には紋章の他に、短めな文章らしきものが刻まれていた。


 信二郎は日本一、いや世界一の古代神学の研究家と噂されている。彼の頭脳知識を持ってすれば、解読でき得ない古代文字など存在しない。


 風の椅子の文章の解読作業に入った。


 『ヨゾラニマウカゼハスベテヲスベル ヨノマヲタオシヨワキコラヲスクウ』


 (解読)

 『夜空に舞う風は全てを総べる、世の魔を倒し弱き子らを救う』

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